ルメール経済相は5月16日、閣議提出したグリーン工業促進法案の骨子を明らかにした。製造部門を国内総生産(GDP)の現行10%から15%に押し上げるのが目的。法案は6月中旬~7月に国会で審議される予定だ。
法案の主な内容は以下の通り。バッテリー、ヒートポンプ、風力発電、太陽光パネルといったグリーンテック分野を振興する税控除策により、外国企業の誘致も含め2030年までに200億€の投資実現を目指す。工場設置の行政手続きにかかる期間を現行の18ヵ月から9ヵ月に短縮。電気自動車(EV)購入への補助金の受給条件にEV製造のカーボンフットプリントを考慮に入れ、米中製よりもEU製のEVを優遇。既存工場の脱炭素化対策に対しては、中小企業向け公的投資銀行が計23億€の特別融資を行う。未成年向けに高利率の「未来の気候貯蓄」を設けグリーン工業への投資に向けるなど。
マクロン大統領は12日にダンケルクを訪れ、台湾の輝能科技社のEV用バッテリー工場の誘致決定を発表。同社は52億€を投資して3000の雇用を創出する見込み。また、電極材の中国XTCが仏原子力オラノ社との合弁会社を同市に設立し15億€投資、1700の雇用を創出する。外国企業の仏投資を促進するための15日のイベント「Choose France」では、今年度で計130億€の投資が確認された。
マクロン大統領がこうしたイベントや各地の企業を訪れるのは、国民の年金改革への不満をそらす意図もある。ダンケルクでは300人が市の広場で鍋を叩き、年金改革に抗議した。同じノール県では列車車輪工場から株主の中国企業が手を引くため閉鎖の危機に瀕しており、外資導入に懐疑的な見方もあるうえ、再工業化のために「(環境保護の)EU規則小休止」をするという大統領の方針にも批判の声が上がっている。
再工業化の動きはフランスだけではない。コロナ危機とウクライナ情勢を受けて、米国は昨年制定したインフレ抑制法で連邦政府がグリーン工業に3690億ドルの補助金を出すことを決め、世界の関連企業の米国投資が盛んに。これに対抗して、EU委員会は3月に温室効果ガスゼロ産業法案と、危機的資源関連法案を発表。グリーンテックに必要な鉱物やバッテリー、太陽光パネルなどの中国依存から脱する方針を明らかにしている。
マクロン大統領は保護主義の復活を否定しているが、米・EUの姿勢を見ても、商品の製造・取引のグローバリゼーションから、必要物資の安定確保のために時代は保護主義に向かっているようだ。(し)