7月31日から今年3度目の猛暑が到来し、6月から断続的に発生した熱波により、フランスで干ばつの危機が高まっている。土壌や木々の乾燥で火事が多発(10日までに約5万ha焼失)し、高温と水不足は農業や国民の生活のほか、電力生産にも大きな影響を及ぼしている。
今年の夏は、地方によっては40℃を超える史上最高気温を記録し、土壌水分指数は1976年、2003年の干ばつ時のそれを下回っている。湖や河川の水位も異常に低下し、干上がった川や、通常より14mも水位の下がった湖もある。ほとんどの農業用水や飲料水は湖や川から取水しているため、5日時点で約100の市町村で飲料水が供給できなくなり、給水車が派遣されている(一部では海水の淡水化も)。8日時点で、本土96県のうち68県が干ばつの「危機警報」、22県が「強い警報」、3県が「警報」と計93県が警報レベルとなり、農地の灌漑や庭の水まき、洗車の制限・禁止などの各種水使用規制が敷かれている。
農業省によると、今年の熱波と水不足により、全国で小麦粉用麦が前年比で4%、パスタ用小麦が20%、トウモロコシは飼料用が13.6%、食用が18.5%ほど生産が減少すると予測。高温と飼い葉不足のため、牛乳の生産量も減少が予想され、農業への影響も大きい。
原発でも発電量減らして対応。
さらに、電力生産にも影響が出ている。仏電力会社(EDF)は4日、南西部ゴルフェック原発の原子炉1基の出力を1300メガワット(MW)から300MWに下げ、南東部アン県のビュジェ原発の2基も出力を下げたと発表。川の水の温度が高すぎて冷却水としての効率が低下する上、使用済み温排水の温度が高くなって生物多様性を守る環境基準を超えてしまうためだ。
原子力安全局(ASN)は4日、猛暑の続く南西部や南東部の5ヵ所の原子力発電所に対し、温排水温度などの環境基準の一時的緩和を9月11日まで延長した。原発だけでなく、水位低下によって水力発電所も今年上半期の発電量は1万8900 ギガワット時*(GWh)で、前年同期より5700 GWh少ないとEDFは発表。EDFによると、夏の高温による発電量減少は例年で年間0.3%だが、今年はすでに5月から減少が始まった。EDFの送電子会社RTEの2021年の報告書は、気候温暖化による電力生産低下は22年で3%(1万GWh)に達する可能性があると予測していた。今年は56基の原子炉のうち冷却水用配管の腐食割れのために12基、その他の点検も含めると計29基が停止されており、この秋冬、電力不足に陥る可能性も懸念される。
こうした事態を受けて、ボルヌ首相は5日に干ばつ問題の省際作業部会を設置したが、野党は対応が遅すぎると批判している。今後も地球温暖化が続けば、干ばつの危険性はますます高まりそうだ。すでに水を多く必要としない作物への転換もはじまっている農業、そしてその他の経済活動、国民の日常生活など、節水の抜本的な対策が必要になるだろう。(し)
*1ギガワット時=1000メガワット時