サッカー競技場スタッド・ド・フランスで起きた大混乱の問題で、上院の法制委員会の聴取が6月1日から行われている。その席で、ダルマナン内相は試合の警備態勢に不備があったと認めたものの、約3万5000枚の偽チケットが大混乱の主な原因とする自説を繰り返した。
この事件は、5月28日にパリ近郊スタッド・ド・フランス(収容能力8万人)で開催された欧州チャンピオンズリーグ決勝戦(リヴァプール対レアルマドリード)で起きた。入場者の流れを競技場がさばききれず、人々が殺到したため警察が催涙ガスを大量に噴射。試合開始が30分遅れ、入場券を持った人が数百人、後半にしか入れなかったり、まったく入場できなかったりした。警察とのもみ合いで多少の軽症者が出たほか、105人が拘束された。
仏紙の報道によると、パリ郊外高速鉄道(RER)B線がストで運行せず、D線に大勢の乗客がなだれ込んだため、D線の駅出口付近の最初の入場券チェックは1時間半経っても大勢の人が溜まり、混乱による人身事故を恐れてパリ警視総監がこのチェックポイントを取り払った。人がスタジアムのゲートに殺到し柵を超えて入場する人も出たため、警察が阻止しようと催涙ガスを大量に発射した。大人しく列に並んでいた家族連れなども催涙ガスを浴びた大混乱の様子が世界のメディアに流れ、特に英タブロイド紙は仏側の警備態勢のお粗末さを非難した。
内外の批判に対し、ダルマナン内相は30日、リヴァプールファン3万~4万人が入場券なしか偽入場券で入ろうとしたために混乱が起きたと、責任を全面的にリヴァプールファンに負わせる発言をした。内相は、試合の開催責任者である欧州サッカー連盟(UEFA)が2600枚の偽チケットをスキャンしたと発言したが、UEFAは2800枚という偽チケットの枚数を仏当局には伝えていないとした上、3~4万人の数字の根拠が不明として、独自の調査を行う意向を表明した。仏サッカー連盟(FFF)は、7.5万枚のチケット販売に対し、RERやバスなど交通機関の集計から11万人がスタジアムに押しかけたため、3.5万人が混乱の原因になったと内相の説に従うような言明をした。
内相は1日の上院委員会の質問に、「警備態勢に不備があった」こと、警察の催涙ガスの過剰な使用があったことを認め、被害を受けたリヴァプールファンへ「心から謝罪する」と発言。しかし、6500人の警察を配備し、不備はあったものの人命を保護することはできたと評価し、チェックされたチケットの半分が偽物で、3.5万人がチケットなしか偽チケットで来たことを重ねて主張した。この数字には根拠がないという意見も多く、野党は「わが国の恥」とし、政府は責任を回避していると厳しく批判。ルペン氏は「事件は重大で、内相の嘘も重大だ」とした。内相は同日、英国人およびスペイン人は自国で6日からこの件で告訴できるよう手配し、警察の行き過ぎについて警察監察総監(IGPN)に調査を依頼するとした。
リヴァプールチームの会長が英国ファンに責任を押しつける仏政府の謝罪を31日に求めるなど、英仏関係の問題にも発展している。フランスは来年にラグビーW杯、24年は夏季五輪の開催を控えているだけに、スポーツ メガイベントの組織・警備態勢能力への不安の声も聞かれる。(し)