ロシアのウクライナ侵攻から1ヵ月以上が経ち、当初から危惧された仏経済、そして国民生活にも影響が出始めてきた。
まずは燃料価格の高騰。昨年後半からの値上がりがウクライナ戦争による供給不安からさらに拍車がかかり、ガソリンや軽油がついに2ユーロ/ℓを超えた。さらに、チタンなど金属、穀物、植物油、家畜飼料の露・ウクライナからの供給減少のため市場価格が高騰。漁業、農業、輸送、建設などの産業への影響が懸念されている。政府は3月16日、戦争の影響に対応する経済レジリエンス(強靭化)計画として、4月1日から7月末までガソリン・軽油・車両用天然ガス、液化ガス1ℓにつき15セントを政府が負担すると発表。政府の要請でトタルエネルジーも自社ガソリンスタンドで10セント値引きする。特に燃料費がコストの大きな部分を占める鉄鋼、化学、製紙などの業種では、燃料費増加分の半分を政府が負担。漁船には燃料1ℓに35セントの援助、農家には総額4億ユーロの支援を決めた。また政府は、27年までに液化ガス調達、再生可能エネルギー推進により、ロシア依存を解消する方針を示した。
こうした政府の支援策を不十分として、輸送、農業・漁業、建設業の人々が全国の数都市で石油貯蔵所・道路・漁港封鎖などの抗議運動を15日と21日に行った。インフレは2月時点で年間3.6%だったが、さらに上昇するとみられる。燃料費や食料品などの値上げへの国民の不安は大きい。
一方で、ロシアに進出している企業への圧力が高まっている。ゼレンスキー大統領が23日に仏国会でのビデオ演説で、「ルノー、オーシャン、ルロワ・メルランはロシアの人殺しのスポンサーになるのをやめるべき」と訴えたのを受け、SNSでもこれら企業のボイコット呼びかけが急増。トタルは22日になって露原油・石油製品購入を年末までにやめると発表した。だが、ガス供給や北極液化ガス開発計画は継続する。23日には露自動車アフトヴァース社の大株主ルノーが、国外最大の拠点であるロシアでの事業を一時停止すると発表。ルロワ・メルランは事業継続。ロレアルは店舗を閉店したが製造は継続する。
仏企業はロシア人の雇用や生活への影響を口にするが、事業売却や投資資金回収が困難なことが主な理由だろう。将来は完全撤退への道を模索せざるを得なくなる可能性もある。一次産品の不足や値上がり、エネルギー政策転換、ロシア投資の今後など、仏政府が言うように将来に向けての長期的な対応が必要になりそうだ。(し)