要介護高齢者施設(Ehpad)を運営するオルペア社の利益第一主義体質や入居者への虐待を暴露した『Les Fossoyeurs(墓堀人)』の出版を受け、民間の高齢者施設のクオリティへの批判がメディアでしきりに報じられている。
同書はジャーナリスト、ヴィクトール・カスタネ氏が、ヌイイ・シュール・セーヌにあるオルペアの高級Ehpad (月5300ユーロ以上)入居者の家族の証言をきっかけに、3年間にわたり同社の元管理職・介護士や入居者の家族ら約200人に取材し1月26日に出版。本書では、オムツ交換は1日3回までという規則、重症の床ずれを放置して入居者を死に至らしめた疑惑、有期雇用や派遣社員の多用、納入業者へのリべート要求、コスト削減・利益重視の体質が浮かび上がる。施設開設の許可を出す地域圏や県の政治家と同社とのつながりも指摘されている。
1989年設立のオルペアは、高齢者施設と病院部門の世界トップ企業で、欧州を中心に23ヵ国に約1100の施設を運営し、国内では220のEhpadを有する急成長企業だ。現在、国内7517軒のEhpadのうち、定員総数の51%が公立、非営利団体運営が29%、営利企業運営が20%だが、90年代末頃から営利企業参入が増え、民間投資会社が利益目的で投資する「市場」に発展した。オルペア社の2020年度の純利益1億6000万ユーロの34%は株主に配当されている。
政府はこのスキャンダルを受けて2月1日、オルペアの施設に対して社会問題監察総監(IGAS)の調査ならびに関係当局による立入検査を行う意向を示し、家族代表、Ehpad関係者、地方議員らに聴取して、監視強化策、虐待防止策、認可手続きの見直し案などを月末に発表するとした。また、3日からは国民議会の社会問題委員会が、30日に急遽交代した同社会長と仏社長、地域圏保健局局長らを召喚して事情聴取している。また、上院に調査委員会も設置される予定だ。一方で、入居者の家族は、過失致死、人命を危険にさらした罪などで集団訴訟の準備を進めており、3月にも告訴する予定だ。仏Ehpad業界の第2位コリアン社の施設の入居者家族からも数十件の同様の相談が弁護士に寄せられており、こちらも4月に告訴予定だという。
今回のスキャンダルで高齢者虐待の通報を受け付けるフリーダイヤルへの電話が急増した。倫理諮問委員会(CCNE)はすでに18年にEhpadにおける虐待に警鐘を鳴らしており、国の対応が不十分だったことは明らかだ。監督責任の明確化と具体的な対策が待たれる。(し)