海のヴェルサイユ:コルドゥアンの灯台へ。
「灯台の王様、王様の灯台」、「海のヴェルサイユ」などと称されるコルドゥアンの灯台が、この夏、ユネスコの世界遺産に登録された。ジロンド河の河口に1611年に完成した灯台は、400年以上にもわたって、大西洋からジロンド河を経てボルドー港へ航行する船を導いてきた。
フランスにある現役灯台のなかでは最古という瀟洒(しょうしゃ)な灯台内には礼拝堂があったり、灯台守が常駐する国内最後の灯台だったりという、すこし特別な存在だ。また、床が大理石でモザイクのように模様が組まれていたり、ナポレオン3世様式の寄木張りだったり、家具はすべて灯台の形とサイズにあつらえられていて、まさしく宮殿のよう。春から10月末まで見学者を迎えるが、秋と冬は灯台守ふたりだけの海上暮らしとなる。
ボルドーからなら、ジロンド河の右岸からでも左岸からでも行けるのだが、今回は左岸のメドック地方を通るコース。ボルドー駅を始発としてメドックを北上するローカル線で突端の港まで行き、船で灯台が建つ岩礁に上陸する。帰りはまたその電車に乗って、ポイヤック、マルゴー…、メドックの銘醸地で途中下車してシャトーに寄ったり、ジロンド河のほとりで揚げた小魚でアペリティフ…….そんな小旅行はいかがだろう。(六)
かつてフランス国王の権力を象徴した灯台へ。
メドック港から船で40分ほど。引き潮になると、灯台までつづく石の埠頭が水中から現れる。そこで船を降りて、灯台まで歩く。写真だと細く見えていた灯台だが、いざ目の前に立つと重厚で圧倒的だ。土台部分は直径16メートルで、灯台守4人それぞれの部屋4室や、発電機などがある。
4世紀にわたって航路を照らしてきた灯台のなかに入り、7階建て、301段のらせん階段をのぼれば、67mの高さからの大海原の眺めが見渡せる。さわやかな大西洋の風に、早起きで電車を乗り継いで来た疲れと眠気も吹っ飛んでゆく。
大西洋とボルドー港を結ぶジロンド河は青銅器時代から交易路として使われた。その長い歴史から、ボルドー港は早くも12世紀には欧州の重要な港に発展。「コルドゥアン」という名は、スペインはコルドバの商人に由来するという説がある。彼らがボルドーワインを仕入れるために船でジロンド河に入る際に灯台が必要だと、当時アキテーヌ地方を支配していたイングランドのエドワード黒太子に要請し、1362年頃、黒太子が16mほどの塔の上で松明(たいまつ)を焚く塔を建てたからだ(コルドバは仏語でCordoueコルドゥ)。
後にこれが荒廃し事故が多発したことから、1584年フランス国王アンリ3世が灯台建設をルイ・ド・フォワに託した。これが現在の灯台の礎となる。宗教戦争、海上に建築する困難さなど、竣工までに27年間を要したため、建築家ド・フォワも亡くなり、アンリ4世も没した翌年の1611年に、ようやく高さ37mの灯台が完成した(上の版画)。
17世紀、ルイ14世の時代になるとフランスは、英国やオランダのような海洋国家をめざす。パリ天体観測所に地図を作らせ、財務総監コルベールはブレストやロシュフォールに造船所を設け、1681年「海事勅令」を編纂させる。軍事建築家ヴォーバンが要所に灯台を建設してゆくのもこの頃だ。そしてジロンド河は、年間2千隻もの船が航行する重要航路となった。竣工時、高さ30mほどだった灯台は、1786年に67.5m(現在の高さ)になる。
1862年、パリのノートル・ダム大聖堂と同時にフランス歴史建造物に指定された灯台は、この5年間で500万ユーロ(6億5千万円)をかけて修復された。ユネスコではこの7月、審査国21ヵ国が満場一致で世界遺産への登録を決めたそうだ。410歳の現役灯台は、今晩もまた250ワットの白・赤・緑の光を、約40km先まで放って、船に航路を示すのだ。
● 灯台守に向いているのは、どんな人?
船を光の信号で誘導するのがすべて自動となった今、灯台守は「建物の管理人」的な仕事が多いという。灯台は潮風にさらされているから建物の傷みが激しく、修繕、機械類修理、掃除、床のワックスがけ、観光シーズンは毎日、見学者の案内をするのも重要な仕事だ。おいしいスズキなども釣れるから、自炊と釣りが好きならいっそう楽しめる。向いているのは「マルチな人」だそう。
● ボルドーからの行き方(ジロンド左岸コース)
灯台の見学は、船で行くしかない。船に乗るには国鉄ボルドー駅からTER電車でメドック突端の終着駅 La Pointe de Graveまで行き (所要時間1時間50分、20€前後)、Médoc港へ(駅から徒歩15分)。旅の予定はまずこの船の予約から。ハイシーズンでも1日1便か2便のみ、潮の満干で毎日出港の時間が違うからだ。
乗る船の時間が決まったら、次はボルドーからの電車の時刻。ほぼ2時間に1本間隔。車窓からの風景はまぁまぁだが、夏なら、ビーチが近いSoulac-sur-Mer駅で、ビキニ美女と隣席になったりもする。
船予約 : www.phare-de-cordouan.fr/preparer-visite/horaires-reservation/verdon-sur-mer/
(料金:大人42€〜49€。灯台見学料含む)
電車時刻検索 : www.ter.sncf.com/nouvelle-aquitaine/horaires/recherche
灯台を見た後は、ボルドーの方向へ戻りながらおいしい寄り道。
続きは後日掲載しますので、どうぞお楽しみに。