英国の国民投票で欧州連合(EU)離脱が決定して4年半。移行期間も終了し、英国は12月31日現地時間23時に実質的にEUを去った。
離脱から1週間前の12月24日、EU委員会と英国の間で離脱後の関係について合意が成立した。EU委員長は「バランスのとれた合意」と歓迎し、ジョンソン英首相は「ついに合意が成った」と喜びを露わに。合意は28日にEU加盟国代表者会合で、30日には英議会で承認された。
主な合意内容は通商関係と漁業協定。通商面では、英国はEU共通市場から離脱するが、関税も割当もない自由貿易となる。ただし税関は復活するため税関申告が必要となり、食品や生き物については衛生・植物検疫証明書が必要に。また、環境・労働ダンピングが発覚した場合は関税導入の可能性もあり、公的補助金によるダンピングの場合は両者で対応を協議する。
争点だった漁業については、2026年6月までに段階的に英経済水域におけるEU漁業割当の25%(金額ベース)を英国に返還し、その後は毎年漁業協定を交わすことになる。EU諸国は英海域で年間6億5千万ユーロ(英はEU海域で1億1千万ユーロ)の漁獲高を上げており、特にフランス、オランダ、デンマークにとっては打撃だ。3年以内に80%回復を主張していた英国に対し、この合意はEU側の勝利と言えよう。現時点では未定の返還海域と魚類によっては大きな影響を受ける漁業者もあり、EUは漁業調整基金53億ユーロを準備し加盟国に配分する。ジラルダン仏海洋相は影響の大きい漁業者、卸商に最高3万ユーロ支援すると発言。
レゼコー28日付は、関税も割当もないため輸出入にほぼ影響はないと分析している。だが、税関手続きで物流のスピードが落ちるのは必至だ。年間500万台の貨物トラックが英から入るカレーでは離脱後1週間時点で、離脱に備えた買い溜めと英のロックダウンのために交通量は減っており、特に混乱はない。英国人買物客が多いカレーでは影響を見越して市長が免税地区の設置を求めている。
人の自由往来の終了に伴い、英国で働きたいEU市民は今後、労働許可が必要になる。すでに在英の400万人は滞在・労働許可を維持でき、逆も同様。EU健康保険証も英では無効、ペット同伴の場合は獣医証明書が必要になるほか、交換留学エラスムス制度も終了、英大学に留学する場合は授業料が英学生の倍の「外国人」扱いなど日常生活に関わる影響も多い。まだ未定の案件も多数あり、47年間も属していた「共同体」からの離反は一朝一夕ではいかないようだ。(し)