今年のカンヌ映画祭はルモンド紙の表現を借りれば、「開催しないが存在する」という独特の立ち位置。通常の映画祭の形では開催しないが、公式セレクションの作品は発表するというものだ。
6月3日に発表された作品は、世界147カ国・2067作品から選ばれた56本。これらに「カンヌ2020」レーベルが付与される。格付け好きなフランスらしいやり方だ。ただし、その目的は品質保証だけではない。ティエリー・フレモー総代表によると、レーベルは本来の映画祭の役割のひとつである「映画館と観客の橋渡し」になることを目指す。コロナ禍で映画館が閉鎖されている今、一層切実な意味を持つものだ。
「カンヌ2020」レーベルには、「コンペティション」「ある視点」など、従来の部門が消えている。その一方、「常連(2回目以上)14本」「初参加14本」「初監督作品15本」「コメディ5本」と、交通整理をしながら紹介。重量級の巨匠が見当たらず、新人の多さには目を見張るが、カンヌは「未来志向の表れ」と自負する。
フレモーが「映画館に人々を戻らせるのに完璧な作品」として紹介したのが、7月14日に公開されるフランソワ・オゾンの青春映画『Eté 85』。話題のウェス・アンダーソン監督『The French Dispatch』は10月14日に公開予定で、こちらは秋の映画館を盛り上げる起爆剤的な作品だ。例年よりコメディやアニメが目立つのも、“映画館ファースト”の意識の表れだろう。
日本からは河瀬直美、深田晃司(3h48の長尺)、スタジオジブリの宮崎吾朗作品が選ばれた。スティーブ・マックィーン作品が2本あり、うち一本が警察の暴力に晒(さら)される黒人コミュニティの話というのも時節柄気になるところ。
「カンヌ2020」レーベルは今後、他の映画祭で招待上映もされる。サン・セバスチャンやトロント映画祭では賞レースに絡む可能性もある(トロントは観客賞の受賞対象なのだろう)。映画ファンは積極的に映画館に足を運び、「私のパルムドール」に出会ってほしい。(瑞)