新型コロナウイルスの流行で病院に勤務する人の労働環境に注目が集まるなか、政府はこれまでの医療政策の誤りを認め、抜本的な改革に着手することを発表した。
公立病院の看護師や介護士の待遇や、運営改善を目指す。医療関係者は昨年秋から、賃金アップや過重労働の解消を訴えストを行っていたが、コロナという歴史的な危機を経て、ようやく必要性が認識されたようだ。5月15日、マクロン大統領はパリの病院で医師や看護師らと対話し、政策の誤りを認め、看護師・介護士の「貧困化」に終止符を打つと発言。ヴェラン保健相も20日、これまで政府が示していた病院改革計画は不十分だったと認め、医療従事者の使命感は「国の誇り」であり、コロナ収束後の職場環境は「これまでとは同じには決してしない」と約束した。
新たな改革では、病院や高齢者施設の看護師・介護士の給与引上げや、保健当局への報告や許可申請など事務作業の簡略化を早期に行うとしている。25日から医療従事者の代表との協議を始め、7月中旬までに計画の詳細を発表する。政府はCovid-19対応への特別手当として医療従事者に一人1000〜1500ユーロを支給することを決めたが、長期的な労働条件改善にも本格的に着手する。
経済協力開発機構(OECD)によると、フランスの看護師の報酬は他の業種の平均給与より6%低く(2017年)この水準は、OECD加盟国全体やドイツ、日本などと比べて低い。一方で、国内総生産に占める保健分野への財政支出の割合は11.2%で、OECD加盟国平均の8.8%より高い。ヴェラン保健大臣は、フランスの保健システムは「あまり効率がよくない」と認めた。
労働条件の悪さは、公立病院の人手不足を生んでいる。ル・パリジャン紙によると、パリの公立病院全体で、看護師500人分のポストが空席となっている。また、2013〜19年で、全国の病院の病床1万7500床が減少した。全国の病院の債務は合計300億ユーロに達している。政府は昨年、その3分の1を請け負うことを発表したが、職員の給与アップには結びつかないと指摘されていた。
3月以降、市民が毎日20時に窓辺やベランダで医療従事者を讃えて拍手を送る動きは下火になりつつある。今回の危機で学んだ医療従事者の大切さを、国も私たちも忘れてはならない(重)。