政府は、新型コロナウイルスの感染者と接触があった人を特定するスマートフォンのアプリケーション「StopCovid」の導入に向け準備を進めている。セドリック・オ=デジタル担当副大臣(経済・財務省)は、テレビ出演し「ロックダウン解除第2段階の6月2日からの使用開始に向け、5月11日からテストを開始し、5月25日の週から国会で審議する」とした。感染の疑いがある人に早期に検査を受けさせ、感染拡大防止につなげたい考え。しかし国による行動の監視だとして、導入に反対する声は強い。
政府によると、アプリはブルートゥースを使い、周辺にいる別のユーザーを認識し記憶する。あるユーザーの感染が確認されると、過去14日間に一定の時間以上、近くにいたユーザーに、感染者と接触があったことを知らせるメッセージが自動送信される。氏名など個人情報は伝えられない。GPS技術は使わず、位置情報も収集されない。アプリは希望者だけが利用する。
報道によると、個人が特定されにくいようIDは携帯電話ごとに無作為に割り当てられた番号で自動的に短時間で変更される。情報は感染の平均潜伏期間である14日間を過ぎると消去される。ユーザーが感染したという情報を、アプリがどう入手するかは明確になっていない。患者本人による入力は虚偽申告の可能性もあるため、保健当局の協力を必要とするとみられる。オリヴィエ・ヴェラン保健相はル・モンド紙に「感染ルートの特定は、感染拡大防止につながる」と意義を説明している。
しかし期待される効果は不透明だ。セドリック・オ=デジタル担当国務長官も同紙に、ブルートゥースはユーザー同士の距離を識別できないなど技術的問題のほか、利用者が人口の20%以下でも効果を発揮するのか、など問題点を認めている。同様のアプリはすでに中国や韓国などで導入、ブルートゥースを使うシステムはシンガポールで利用されている。
国がアプリを使って情報を収集することを問題視する意見は多い。ネット上のプライバシー保護問題に詳しい市民団体や専門家は「特定の人に連絡するという目的自体、匿名性がない」「緊急事態に乗じて、健康上の情報を収集されることに人々を慣れさせ、長期的にみて問題」、などと危険性を指摘している。カスタネール内相すらも当初は「フランス文化にそぐわない」と懐疑的だった。
4月末にも(26・27日付)ル・モンド紙は「電話による追跡のリスクと希望」という見出しで4ページにわたって記事や科学者や社会学者などの賛否両論の寄稿を掲載。テストは始まるが議論は終わったわけではない。(重)
(5月7日修正)