黄色いベスト運動や年金改革反対運動でデモ参加者と警察・機動隊との衝突が相次ぐなか、治安当局の介入で参加者が死亡したり、重傷を負う例が相次いでいる。 これまで謝罪や糾弾をせず、あいまいな態度を取ってきた政府も、当局の非を認め始めた。警察を管轄するクリストフ・カスタネール内相は13日、パリ郊外の警察学校での年頭あいさつで、「力を適切に加減して使うこと」は「国民との信頼の基礎」だと戒めた。マクロン大統領も翌14日、訪問先のポーで警察官と憲兵に「最大限の職業倫理」を求め、「受け入れがたい行為が明らかにあった」と述べた。
警察暴力の被害は2018年ごろから目立つようになった。同年末、マルセイユで「黄色いベスト運動」のデモ中に自宅の雨戸を閉めようと窓を開けた80歳の女性が、警察が発砲した催涙弾を顔に受け数日後に死亡。昨年初頭にはボルドーで、当局が発砲したゴム弾が目に当たったデモ隊の一人が4日間昏睡状態に陥る。7月にはナントの町外れで、音響装置の使用許可時間を超えて音楽祭を祝っていた人たちを解散させようと治安部隊が催涙ガスを使用し、川に飛び込んだ若者の一人が死亡。今年に入ってからも、パリでバイクのナンバープレートが曇っているという理由で職務質問を受けた男性が、警官4人に首を抑えられ死亡。またパリの年金改革反対デモで、顔から流血し手錠をはめられ、地面で身動きができない状態のデモ参加者を、警官が何度も殴る様子が撮影されたビデオが出回った。
当局の暴力の背景として、警察労組などは、デモが増え、治安当局を攻撃する壊し屋(casseurs)との対峙が続いたことによる警官の精神的な疲弊を指摘。しかしデモが頻繁になる前から、警察の強権的な態度や、不祥事を起こした警官をかばう政府の体質は指摘されてきた。カメラ付き携帯電話やSNSの発達により映像証拠が公開され、隠していた闇が明るみになっていることもある。国連や欧州安全保障協力機構などもフランス当局を非難する勧告を発表してきた。
1月26日、カスタネール内相はようやく、爆薬の入った催涙手榴弾GLI-F4の使用を即座にやめる意向を明らかにした。欧州でもフランスだけがこの手榴弾を使い続けてきた。黄色いベスト運動開始時からこの武器により5人が手を失った。ゴム弾銃によって片目を失った人は24人にのぼる。(重)