マクロン大統領の公約だった「すべての女性への生殖補助医療(ART/仏語はPMA)」が実現に向けて進みそうだ。フィリップ首相は12日、PMAを含む生命倫理法改正案を7月末に閣議提出、9月末に国会審議という日程を提示。今後、PMAを巡る議論が活発化しそうだ。
体外受精、顕微授精、凍結胚といったPMAは、現行法では不妊症に悩む、あるいは重篤な病気を子に遺伝させる恐れのある生殖可能年齢の異性カップルに許可されている。今回の法改正では、PMAを女性カップルや独身女性に拡大適用する。パートナー男性の凍結精子を死後に人工授精することや代理母は含まれていない。
PMA拡大適用は微妙な問題を含む。フィリップ首相が法案は準備完了と演説した翌日に、ベルベ法相が「親子関係の問題については政府の意見はまだ確定していない」と述べたように、政府・与党内でも微妙な意見の相違があるようだ。法改正案では、女性カップルのうち出産する女性を母親とし、もう一方の女性は「共同親」として公証人の前で宣言する方式が検討されているが、最終案でどうなるかは未定だ。もう一つの問題は、PMAで生まれた子が生物学的父親の身元を知る権利。現行法では精子提供者の匿名性が守られているが、改正案では子の知る権利を優先して匿名性をなくすか、匿名性を維持したままドナー情報へのアクセスを可能にするか、ドナーの同意があれば身元を含めた情報を提供するか、ドナー自身が最初から匿名か否かを選択するようにするかといった点を検討中。国家倫理諮問委員会(CCNE)は昨年9月、ドナーの身元アクセスに賛同する勧告を出し、最近の世論調査でも75%が賛成している。ビュザン保健相は23日、子が成人すればドナー情報へのアクセスを基本的に認める考えだが国務院の判断を仰ぐと慎重な姿勢を見せた。同相はPMAの費用は異性カップルの場合と同様に43歳までは医療保険で払い戻す考えだ。
女性カップルや独身女性のPMAには、世論調査でも65%の国民が賛成しており、同性婚が合法化された2013年直後の14年の調査から10ポイント増加した。世論は熟してきているものの、同性婚に反対したカトリック・保守系の市民団体連合「La Manif pour tous」は、PMA拡大は「父親のない子どもの不安定さを助長する」と13年のような大規模な抗議運動を行うと宣言している。国会でも右派・極右の反対派との間で熱い議論が繰り広げられそうだ。(し)