鉛の兵隊は欧米で19世紀から20世紀前半まで男の子の玩具の定番だった。主に独、仏、英で製造され、70〜80代以上のフランス人男性はナポレオン軍や第1次大戦の兵隊フィギュアで遊んだ思い出のある人が多いそうだ。第2次大戦後はプラスチック製に取って代わられ、80年代には鉛の玩具が欧州で禁止されたため、鉛の兵隊人形は玩具でなく蒐集の対象となった。フランスで唯一、鉛のフィギュアを製造している創業200年近いCBGミニョ社をロワール地方に訪ねた。
同社は1825年にパリで創業した。創業者2人とその後継者の3人の頭文字を取ってC.B.Gという社名になった。1838年から製造を始めた鉛の兵隊は世紀末の万博で人気を博し、第1次大戦勃発に伴い、男児の玩具として大ヒットした。1917年に社主となったアンリ・ミニョ氏の死後に娘が跡を継いだが92年に倒産。だが2年後、蒐集家だった実業家エドゥワール・ペムゼックさんがCBGミニョ製品を是非とも存続させたいと同社を買収した。ソミュールから25kmの町に住んでいたエドゥワールさんは会社も同地に移し、世界中の蒐集家のニーズを受けて業績は順調だった。95年に息子ロイックさん(現社長)が入社した時は15人の従業員がいたという。
重厚な石造りの2階建て社屋の2階(120m2)は製品の展示室になっており、古代、中世、アンシャンレジーム、仏革命、ナポレオン時代、王政復古、植民地時代、第1次・第2次大戦、現代といった時代別、さらにアメリカの独立戦争、南北戦争、そして消防士、サーカス、スポーツ選手、貴族、農家、動物といった軍関係でないものも、テーマ別に12,000体陳列されている。一番人気はカラフルな色のナポレオン軍だ。蒐集家のほか、軍・憲兵隊、美術館、企業、協会などが記念品や贈答品として特注するケースもある。既製品が20€〜に対して、鋳型から作る特注品は1体350€以上。人形だけでなく、大砲や戦車もあるし、ジオラマ、城や風景などの背景を紙に書き込んだケース型などいろんな種類があって、見ていて楽しい。
1階はアトリエ、事務所と倉庫だ。鉛と錫(すず)の合金を200℃に溶かしたものをひしゃくですくってブロンズ型に流し入れると数秒で固まる様子をロイックさんが実演してくれたが、この作業はもうここでは行われていない。鉛の環境・安全基準遵守のためには莫大な設備投資が必要になるため、2013年からパリ郊外の会社に外注している。アトリエに6千個ある鋳型も今は使われず、シリコン型が使われている。鋳造から頭や銃などの溶接まで下請けで製造したフィギュアを、社内外の絵付師3人が絵付けする。細い筆で油絵具を載せていく様子を見せてもらったが、神経を使う細かい作業だ。
「父に展示会や骨董屋に連れ回されたので、小さい頃から鉛の兵隊になじんできた」というロイックさんは、「鉛の人形のニーズは蒐集家や販売店主の高齢化とともに消滅していくだろう。社員2人のこの会社はあと20年くらい続くだろうか」と言う。長い歴史のあるこの会社がいずれ商品とともに消えてゆくとしたら残念でならない。(し)