多作の人フランソワ・オゾン監督の長編19作目。原作は英国人作家エイダン・チェンバーズが、1982年に発表した青春小説『おれの墓で踊れ』。監督自身は17歳の時に読み、「自分が最初に映画を撮るならこの物語」と思ったそうだが、35年後にようやく映画化が実現した。少年ふたりが織りなす1985年のひと夏の物語だ。
小説の舞台は英国南東部サウスエンド=オン=シー、映画ではノルマンディの港町ル・トレポールに移された。アレクシス(フェリックス・ルフェーヴル)は小船が転覆し、ふたつ年上のダヴィッド(バンジャマン・ヴォワザン)に助けられる。彼はダヴィッドの家に招かれ急接近、恋人になるのに時間はかからない。
アレクシスはややナイーブな16歳。なぜか死の観念に魅了されている。一方、無鉄砲で陽気に見えるダヴィドだが、早くに父を失くしており、死を実感として理解している。物語はアレクシス視点で進む。観客は多感な時を生きる彼が、ダヴィッドを介し濃密な愛と性、死を発見、やがて自分を見出す様に立ち会う。周囲には女ともだち、文学教師、両親、ソーシャルワーカーらを配置し、二人の関係性の解釈に深みを与える。脇役の一人ひとりに意味がある。
スーパー16のフィルムは肌を温かく艶めかしく映し、青春の瑞々しさ、残酷さまでも鮮烈にあぶり出す。原作を知らぬ人なら、冒頭からのあまりに予想外な展開に驚くはず。ストーリーテリングにこだわるオゾン好みのドラマなのだ。
コロナ禍で通常開催が中止になったカンヌ映画祭が付与する「カンヌ2020」レーベル第一弾という重圧もなんのその。常に前を見て、軽やかに秀作を連打し続けるのがオゾン。すでに現在はソフィー・マルソーが主演となる次作『Tout s’est bien passé』の撮影中だ。(瑞)