新型コロナウイルスの流行で、フランスの労働環境は劇的な変化を強いられている。国は原則自宅勤務を指示する一方で、国民生活に必須な業種で在宅勤務ができない人は感染リスクを冒しても出勤し続けるよう呼びかけ、矛盾・混乱が続いている。
フランスでの流行初期から国は、できるだけ社員を在宅勤務させるよう企業に呼びかけた。3月17日から証明書なしの外出が禁止されると、在宅勤務できる職業の人、約8万人が家で仕事をするようになった。
しかし事態が急速に進展したため、企業の対応が追いついていない。昨年末の公共交通機関のストで在宅勤務を許可する企業も増えていたが、全従業員が無期限に連日在宅勤務という事態は想定外。全社員の自宅のIT・通話環境配備など課題は多く、16日から全国の保育・教育機関が閉鎖されたため、子供を持つ社員は仕事と子供の世話を並行せざるを得ない。
一方で、医療関係者はもちろん食料品店の従業員、ゴミ収集員、警察官、交通機関の職員など、在宅勤務できない職業の人は全体の3分の2を占める。子供を預けられず出勤できなくなった人も多い。国は16歳未満の子供がいる家庭は、片親に病欠手当を支給すると発表した。
職場の安全確保も喫緊の課題だ。医療関係者にすらマスクや防護服が行きわたらないなか、ルメール経済相は18日、食品業界など「国が機能するのに必要な企業の全社員に出勤するよう」呼びかけた。従業員の感染リスクを減らすため、スーパーではレジの前にアクリル板を設置するなどの策が取られている。一部企業は、出勤を続ける社員に1000ユーロの特別手当を支払うと発表。しかし防護策に真剣に取り組まない企業や社員に不当な圧力をかける企業も多く、命にかかわる危険がある場合に職務を放棄できる「退く権利」を行使する人も出てきている。
3月25日付のリベラシオン紙は、国民生活に必須な業種で感染を恐れながらの仕事を強いられる人の多くが、社会的認知度も所得水準も低い人であることを取り上げ、一面の見出しを古い仏映画「恐怖の報酬」をもじり「恐怖の安報酬」とした。
大半の商店、飲食店などが閉鎖され、観光業など業務を縮小・停止する企業が相次いでいるため、4月2日時点では、40万の企業、400万人ほどが一時的失業に陥ることになりそうだと言われている。政府は企業に対象者の給与を補填するとしているが、個々の従業員が実際に給与を受け取るのがいつかといった不安も広がっている(重)。