私のパンテオン:フランスの街で聞いた、「私の偉人」。

パリのパンテオンといえば、聖ジュヌヴィエーヴの丘の上にある壮大な建造物。建物の正面に、”祖国より偉人に感謝を捧ぐAux grands hommes la patrie reconnaissante ” と書かれてあるとおり、文豪ヴィクトル・ユゴー、アレクサンドル・デュマ、エミール・ゾラ、哲学者ルソー、ヴォルテールなど、フランスの偉人が79人祀られている。2017年に亡くなった政治家で、人工妊娠中絶を合法化し、女性で初めて欧州議会議長を務めたシモーヌ・ヴェイユが夫アントワーヌ・ヴェイユとふたり、盛大なセレモニーと共にパンテオン入りしたのは記憶に新しい。

2020年の年頭はフランスで人々が抱く英雄像に触れてみようと、パンテオンの周辺や公園、カフェなどで「自分のパンテオンに入れたい人」を聞いてみた。突然聞かれると、これが案外と難しいらしく、人々は困惑しながら、また、楽しそうに、フランス人だけではなく日本人を含む外国人、存命の人、また、意外な分野から自分なりの偉人の名前を挙げてくれた。若い男性から「女性を入れたい」という声が多かったのも印象的だ。今のフランスの英雄たちと、その理由を見てみよう。(六)

ダニエルさん(アメリカ人弁護士30歳)
「コリューシュ、ゲンズブール、シラク元大統領。コリューシュはコミック芸人として人を笑わせる一方で、貧しい人々に食事を提供するレストランを設立した。」
Coluche(1944-86) : 俳優、コミック芸人 Les Restos du coeur 設立者、大統領候補。/
Serge Gainsbourg(1928-91) : 歌手、作詞・作曲家/
Jacques Chirac (1932-2019) : 元大統領

コレットさん (元リール市役所勤務)
「難問ですね…ピエール・モロワかしら。私たちの町リールを救ってくれたから。」
Pierre Mauroy(1928-2013) : 政治家。ミッテラン社会党政権で首相。28年以上リール市の市長を務め同市を発展させた。

セリアさん (大学生 環境法専攻)
「サン=テグジュペリです。子どもの時『星の王子さま』『夜間飛行』を読み感銘を受け、今も読み返しています。」
Antoine de Saint-Exupéry (1900-44) : 小説家、詩人、パイロット。マルセイユ沖を飛行中に行方不明に。『星の王子様』出版70年を機に2016年、パンテオンにプレートが奉納された。

ブリュノさん (フランス/オーストリア人 放射線科医)
「ノーベル文学賞作家だけど反体制的で論争の的となるエルフリーデ・イェリネク、ボリス・ヴィアン、ネルソン・マンデラ!」
Elfriede Jelinek(1946-) : オーストリア人ノーベル文学賞(2004)作家。
Boris Vian (1920-59) : 作家、詩人、トランペット奏者、ジャズ批評家。
Nelson Mandela (1918-2013) : 20代から反アパルトヘイト運動を行い投獄される。93年ノーベル平和賞。翌年南ア初の全人種参加の選挙で大統領に就任。

フロランスさん (ブティック経営)
「航空写真家ヤン・アルチュス=ベルトラン。政治家とは違い、環境のために自分で様々なアクションをしている。ジャコメッティ、モディリアーニ、ヘンデル、ヘッセ、ピエール・ロティ…!」
Yann Arthus-Bertrand (1946- ) : 航空写真により大自然の美しさ、環境保全の大切さを訴える。環境団体GoodPlanet基金主宰。

クレールさん & クロエさん (大学生 20歳 美術史専攻)
「当然、シモーヌ・ド・ボーヴォワール。素晴らしい音楽と文学を遺したボリス・ヴィアン。女優のロミー・シュナイダー。」
Simone de Beauvoir (1908-86) : 作家、女性解放思想家。

ミシェルさん (リタイア)
「ベルトラム憲兵隊大佐。」
Colonel Arnaud Beltrame(1973 – 2018) : 2018年3月、南仏カルカソンヌのスーパー人質たてこもり事件現場で、人質の身代わりとなり殺害された。勇気を讃える公式セレモニーや葬儀が行われた。

ラファエルさん (大学生 26歳 哲学専攻)
「ボーヴォワール、彫刻家カミーユ・クローデル、画家のソニア・ドロネー!」
Simone de Beauvoir/Camille Claudel (1864-1943):彫刻家/
Sonia Delaunay (1885-1979) : 画家。

ジュリオさん (赤十字勤務 36歳)
「〈赤十字の父〉アンリ・デュナン。欧州統合を推進したロベール・シューマン。クルド人で初めてトルコ議会の議員となったレイラ・ザーナ。」
Henri Dunant(1828-1910) : スイス人、赤十字創設者。/
Robert Schuman
(1886-1963) : EU欧州連合の基礎を作った。ルクセンブルク生まれのドイツ人だが独の第1次大戦敗戦後フランス人となり外相、首相、欧州議会の議長などを務めた。/
Leyla Zana (1961-) : クルド人政治家。

マリ=ノエルさん (元大学情報管理)
「ジャン・ドルメッソンかしら。アカデミー・フランセーズの会員でフランス語の擁護に勤めた人。著書も人柄もいい。」
Jean d’Ormesson (1925-2017) : 思想家、著述家、記者。

スティーヴンソンさん (法学専攻 26歳)
「シラク元大統領、セヴィニェ夫人、革命前の思想家も入れたいからフランソワ・ラブレー、モンテーニュ。」
Mme de Sevigné (1626-96) : ルイ14世の時代の侯爵夫人。娘宛ての手紙を編んだ『セヴィニェ夫人手紙抄』は当時の貴族や宮廷の生活が伺える文学作品として今日も愛読されている。/ François Rabelais (1494-1553) : ルネサンス期の作家、人文主義者、医師。代表作に『ガルガンチュワ物語』『パンタグリュエル物語』。/ Michel de Montaigne(1533 – 92) : ルネサンス期を代表する哲学者。

毛糸帽軍団
(左の女性)「ロベール・ドアノー。生きる喜びをとらえた彼の写真が大好き!」
(右の女性)「シリル・リニャック。彼のお菓子は最高!」
Robert Doisneau(1912-94) : 写真家。「パリ市庁舎前のキス」などが有名。
Cyril Lignac (1977-) : パティシエ、料理人。

セシールさん(大学生 映画専攻)
「女性の文化貢献がきちんと評価されてこなかったから、パティ・スミスとヨーコ・オノ。音楽と平和に貢献したから。ヴィルジニ・デパントはフェミニストの小説家。パンク的なので私のパンテオンに入れたいです。」
Patti Smith (1946-) : ミュージシャン / Yoko Ono (1933-) : ミュージシャン、パフォーマー。
Virginie Despentes (1969-):作家、映画監督。

左:アレックスさん (大学生 哲学と政治学専攻)
ジャン・ジョレス、僕らにとって半分神様的なピエール・ブルデュー、そしてポール・ヴァレリー。
Jean Jaurès (1859-1914) : 仏社会党の前身SFIO設立者。帝国主義戦争に反対し愛国主義者により暗殺された。
Pierre Bourdieu (1930-2002) : 社会学者、哲学者。
Paul Valérie (1871-1945) : 詩人、小説家、評論家。
右:ルイさん (大学で哲学と政治学専攻)
ゲンズブール、ピエール・ブルデュー、あとは女性…フランスで対独レジスタンス活動をしたメリネ・マヌキアン。
Mélinée Manouchian (1913-89) : アルメニア人レジスタンス活動家。夫は移民労働者の対独レジスタンス 「マヌキアン・グループ」のリーダーだったが銃殺された。彼らはフランスのために戦った外国人の象徴に。

ジョスランさん (バイヤー)
「(即答)ジダン!恵まれた環境で育ったわけではないのに、職業的にもクオリティー高く人間的にも優れているから!」
Zinédine Zidane (1972-): 元仏代表サッカー選手。西レアル・マドリッド監督。

ミシェルさん (イラストレーター・エージェント)
「サンペですね!偉大なイラストレーター。小さい頃から好きです。今、90歳近いから亡くなったらパンテオンに埋葬してほしい。」
Jean-Jacques Sempé (1932 – ) : 「プチ・ニコラ」でおなじみのイラストレーター。

ベルナールさん (商事弁護士)
「ルイ16世はそう悪くはなかったんだが革命の犠牲に…。死を前にした”ラ・ペルーズからの便りを待つ”という有名な言葉は、彼が最期まで国政を考えていた証し。」
Louis XVI (1754-93) : ブルボン朝第5代フランス国王。太平洋探検にラ・ペルーズ伯爵を派遣。

ベアトリスさん
「ジョルジュ・サンド、ボーヴォワールと、シスター・エマニュエル。」
George Sand (1804 – 76) : 小説家 / Simone de Beauvoir (1908-86):作家、女性解放思想家。/Soeur Emmanuelle (1908-2008) : ベルギー生まれ。カトリック修道女で社会活動家。哲学教師を定年退職後、エジプトで共同体を作り学校を建設。

フレデリックさん (屋根葺き職人、54歳)
パンテオン?屋根の修復をしたよ!キュリー夫人、パスツール博士はもうパンテオンに入っているし…三船敏郎かな?」

フランソワーズさん
「今日はパンテオンにシモーヌ・ヴェイユ詣でに来ました。パンテオンに埋葬するとしたらピエール神父。」

アレクサンドラさん (公務員、ピアノ奏者)
「エリック・サティ。同時代やその後の音楽への影響は大きいのに、時代を先取りしすぎたために正当に評価されていないと思うので。」
Erik Satie (1866-1925) : 作曲家。

クロチルドさん (大学生 21歳)
「ジョルジュ・ペレックです。『眠る男』(1970)など言葉で遊ぶ、革新的な書き方が好き。」
Georges Perec(1936-82) : 小説家、随筆家。ルノドー賞、メディシス賞など。実験文学集団「ウリポ」に参加し言語遊戯的な筆致を試みた。

ジュヌヴィエーヴさん (元図書館司書)
「ピエール神父ね。」
L’Abbé Pierre(1912-2007) : 慈善団体「エマウス」設立者、カトリック司祭。私財をエマウスに投じ清貧を貫きつつホームレス、貧困者ほか、社会参加できなくなった人々のために活動。

オレリアンさん
「コリューシュとピエール神父です。」

ニコラさん (図書館司書)
女性を!シモーヌ・ド・ボーヴォワールと エディット・ピアフ。
Edith Piaf (1915-1963) : 歌手

マチューさん (大学生 23歳 環境法専攻)
「哲学者ミシェル・セール。社会のすべての分野に興味をもち見識があった人だから。歌手のバルバラも。」
Michel Serres(1930- 2019):哲学者、アカデミー・フランセーズ会員/Barbara (1930-97):歌手

フランソワーズさん
「ピエール神父。村上春樹。現実と幻想と詩情が別の現実を作り出す彼の作品は、読む者に幸福をもたらしてくれるから。ボーヴォワール、カミュ、コレット、ロマン・ガリも。」
L’Abbé Pierre, Haruki Murakami, Simone de Beauvoir…

アレクシさん(歴史雑誌記者)
「ジュリアン・ロプレートルとマダム・ロラン。」
Julien Lauprêtre(1926-2019):慈善団体Secours Populaire の会長を61年間勤めた。第一次世界大戦後、戦争未亡人、孤児、政治犯などを救済。ボランティアの人数ではフランス最多8万人。/ Mme Roland (Jeanne Marie Philipon – 1754-93) :フランス革命期の政治党派「ジロンド派」の影の指導者。自宅で政治サロンを開くなどし、内相の夫を裏から導いた。ジロンド派内閣失墜後に処刑された。

ジュリエットさん (文化施設勤務 24歳)
「セドリック・エルーさん!法律が非人道的ならそれに抵抗するべきだと実践をもって示した。共和国の精神「博愛」を体現する人がパンテオン入りするべきだと思います。当然クリスチアーヌ・トビラ。そしてモハメド・バジュラフィル 。」
Cédric Herrou (1979- ): 移民のフランス入国を手伝い、自分の農家に避難させるなどして何度も逮捕される。「国の人種差別」を糾弾し移民と農業で自活するコミュニティーを形成。
Christiane Taubira (1952-): 仏領ギアナ選出の国会議員時代に大西洋奴隷貿易を「人道に対する罪」と認める法を成立させた。オランド政権で法相に就任し、2013年同性婚を合法化。
Mohamed Bajrafil (1978-):パリ第12大学講師。イスラムは今日のフランス社会に適応すべき」と説くパリ郊外の革新的イスラーム指導者。

パトリシアさん(政治学学生)
「エメ・セゼール。」
Aimé Césaire (1913-2008) : マルティニークの詩人、著述家、政治家。「ネグリチュード文学運動」を牽引し植民地主義を批判。

オリヴィエさん(日本語教師)
「革命とレジスタンスに身を投じた女性3人。オランプ・ド・グージュ、ルイーズ・ミシェル、リュシー・オブラック。」
Olympe de Gouges (1748-93) : フランス革命期のフェミニスト。人権宣言に女性の権利を加えた 『女性および女性市民の権利宣言(女権宣言)』を発表。反革命容疑で逮捕され処刑された。/ Louise Michel (1830-1905) : 労働者の社会主義政権が政府軍と戦ったパリ・コミューンの国民軍女性闘士。著述家、詩人。無政府主義者。/ Lucie Aubrac (1912-2007)第二次世界大戦時のレジスタンス活動家。ナチスに囚われた夫の救出に成功。

パトリックさん (カメラマン 67歳)
「モリエール、ジャック・タチ、ガストン・ラガフ。」
Molière(1622-73) : 劇作家
Jacques Tati (1907-82) : 映画監督
Gaston Lagaffe : ベルギー人バンド・デシネ作家アンドレ・フランカンが1957年に連載し始めたBDの主人公。出版社スピルーの編集部で働くが怠けものでヘマばかりする人物。

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