Q:まあレストランへご飯を食べに行くということ自体が家では食べられないものを食べたいと思うから、そしてあの店に行きたい、と思う人はやっぱりそこへ行ったら美味しいものが食べられると思っているからですよね。しかも神戸、そしてフレンチだし。
滑浦:だから使わなきゃならないところは、やっぱり思い切り使っていましたね。無理してでも使っていたので、だいたいいつもギリギリでした。
Q:今もそうですか?
滑浦:今もあまり考えていないですね。計算できるところとできないところがあるじゃないですか。あんまり計算しちゃうと料理がショボくなってしまう。そんな料理を出しても仕方ないと思うんです。豪快に食材を使ってそれでお金をもらおうよ、という考えです。それでも高い、と思う人は仕方ないです。
Q:あれだけご馳走になって、お昼の40ユーロはリーズナブルだと思いました。
滑浦:そうですよね(笑)。
Q:この地区はどうですか?
滑浦:まだよくわかんないです。
Q:ラスパイユ通りとモンパルナス大通りの間のとても短い通り、場所はいいですよ。
滑浦:一応立地を考えた結果、ここにしました。
Q:他に候補は?
滑浦:ありました。それも左岸でリュクサンブール公園の近くです。
Q:どちら側ですか?オデオン側、アサス側?
滑浦:アサス側です。
Q:あの辺は少し静かですね。でも裏にヴァヴァン、モンパルナスがある。
滑浦:まあ学生が多いですね。
Q:確かにソルボンヌがあるし、学校もたくさんありますね。そのお店はすぐに使える状態でしたか?
滑浦:いや、あっちの方は結構工事をしなければ使えなかったです。
Q:このお店は?
滑浦:ここはこういう感じでした。悪くないと思いました。
Q:物件が決まってからどのぐらいで開店しましたか?
滑浦:1ヶ月とちょっとです。決まるまでがすごく長かったです。1年前から探していました。
Q:じゃあパリに移っていらしたのは1年ぐらい前?
滑浦:1年半前です。物件をいくつか見て「これかな」というのがあって、その中で結局ピンとくるものがさっき話したリュクサンブールかここか、ということでした。そして周りの環境を考えたらこっちがいいということに。ただ物件を見てから契約までに1年ぐらい、結構長かったです。
Q:ここの厨房はすぐに使える状態で?
滑浦:いや、店の開店前日にオーブンが漏電していて使えなくなって、どうしようかと。でもとりあえずオープンしなきゃならないので、オーブンなしでやろう、ということに。
Q:仕入先はいろいろな人に紹介してもらいましたか?
滑浦:まあそうですが、結構変えています。魚は自分で見なきゃならないので、朝一番に店へ行っていいものを。
Q:パリでいい魚屋を見つけるのは難しいですよ。
滑浦:あるんだけれど、いいものを選んでくれないんですよ、気をつけてないと。
Q:それからいいお店は高いです。
滑浦:すごく高いです。ヒラメなんてキロで60ユーロ!
Q:まあパリは特別らしいです、これだけ高いの。
滑浦:でもね、ちょっと値段が高すぎるんじゃないかと思います。
Q:確かに、お肉はそれほど値段を釣り上げられないけれど、お魚はやっぱり。ところで久々のフランス野菜はどうでしたか?
滑浦:うん、何もしなくても美味しいです。ただお客さんはその野菜を普段食べているからやっぱり料理しなきゃ、手を加えなきゃならない。そこでどう手を加えるか?ということをいつも考えています。その食材が本来はどういう味なのかということを理解して、そこへ料理の力を注がなきゃならない。いろいろなものを混ぜて違う味にするよりも、さっきのレンズ豆じゃないですけれど、みんなが考えるレンズ豆の煮込みじゃなくて生じゃなくても囓った時に「豆だ」という感覚が欲しいな、そしてそれをどうするか?ということから発想していきます。
Q:あれ、本当に美味しかった。こっちのグリーンピースも、さやから出して生のまま食べても味がすごくしっかりしていて美味しいんですよ。
滑浦:本来の味を生かす、という調理の仕方がいいなと思います。
Q:最初にいただいた栗、あれも美味しかったです。栗きんとんみたいで
滑浦:栗ってあんまりみんな使わないんです。
Q:あのほっくりした感じが、なんとも言えなかったです。
滑浦:栗そのままの味で
Q:味なんだけれど、裏に工夫がある。
滑浦:まあいろいろ、ね。
Q:あのクルミも、ちょっと甘いりんかけがしてあって、その中はきちんとクルミじゃないですか。
滑浦:うん。そういうのが面白いんですよね。こっちでできても日本じゃできないのが、サラダかな。ルッコラとかいろいろな葉っぱは日本にはないですよ。しかも僕は日本でルッコラのサラダを作ろうとは思わない。
Q:春に出る、ほうれん草の新芽も美味しいですよ。
滑浦:日本には寒締めほうれん草っていう、甘くて結構美味しいのがあります。
Q:ところで今後のプランというのはありますか?開店したばかりですけれど。
滑浦:やっぱりね、雰囲気というか自分のスタイルを作りたいとは思っています。あの店に行きたいな、と思わせるスタイル、まあポール・ボキューズは「クラシック食べたいなー」と思う時に行きたいのかもしれないし。
Q:あの手風琴を聴きたいなと思うかもしれない(笑)。
滑浦:やっぱりスタイル、ここのスタイルを作って愉しんでもらうというということを今考えています。
Q:自分のスタイルを作るとなると、自己分析が必要ですね。
滑浦:驚き、期待を裏切るというか、期待とは違う何かを。僕の性格かもしれないですけれど「人と違う表現を何か」したいんです。それが全てですね。料理で自分を表現しているような気はしますね。
Q:では、これまでにみなさんにもお聞きしてきた最後の質問にします。滑浦さんにとってのお料理って何ですかね?
滑浦:それ、僕今考えているんですよ。ずーっと料理って何だ?ってことを考えている最中です。
Q:まだ何かを見極められていない?
滑浦:何かあるんじゃないかな、って思うんですよね。まだみんなが触れていないところ、ひょっとしたらテーマかもしれないです。みんながしていないことがまだあるんじゃないかな、というのが最大のテーマかもしれない。
Q:それを模索しながら料理を続けていらっしゃるということですね。最初おっしゃってみたいに「本質を見てみたい」というところへ全てが繋がっているかもしれない。自分で確かめなきゃ、スクランブルエッグの話じゃないけれど、「何だろう?」って思って「なんだ、こうだったんだ」ということを自分で確認しなきゃ気が済まない。
滑浦:とにかくね、兄が作ったスクランブルエッグは美味しかった。
Q:今でも忘れられない味?
滑浦:そんなことはないですけど。
Q:そうか、もしかすると全てはここから始まっているかもしれないですね。
滑浦:スイッチが入った。
Q:なるほど(笑)。いいお話をたくさん、ありがとうございました。
Montée
Adresse : 9 rue Léopold Robert, 75014 ParisTEL : 01.4325.5763
URL : www.restaurant-montee.fr/
火-土12h-14h / 19h30-21h30 昼のコースメニュー40€(4皿と2デザート) 夜のコースメニュー80€(7皿と3デザート)