Q:私がとても興味深く思ったのは、まず神戸でお店を始められてからこちらでお店を開かれた、ということです。これまでにお会いしてきた方々のほとんどは、こちらで経験を積んでから独立されています。お生まれも神戸ですか?
滑浦:神戸でも結構田舎のほうです。聞かれると「神戸生まれです」と答えますが、とはいえ有馬温泉のあるほうなので、中心で生まれた人には怒られちゃうかもしれません。
Q:有馬というと山のほうですよね?
滑浦:そうです。僕が生まれたところは、神戸といえども周りはすごく田舎でした。近くにはハイカラな文化もありましたが、僕自身は田舎出なのでコンプレックスがあって中学、高校と上がっていくうちに「田舎者」だと言われてもきましたし。
Q:中学と高校は神戸の中心部に行ったということですか?
滑浦:中学は家の近くの、団地の中にある学校でした。実家が兼業農家だったので、畑を持っていた。すると同級生はみんな、先生までバカにするんですよね。
Q:えー、先生も!?
滑浦:苦笑いをする。だから都会に出たかったということもあるかもしれないです。
神戸の「街」というのは本当に一部だけ、しかも大して大きな街ではない。あの小さな場所にいろいろなことがぎっしりと詰まっている。神戸にはいろいろな有名ブランドがありますけれど、これといった産業はないし、昔あったいいものがなくなっていっていると思います。新しいものを追うばかりに古いものがどんどんなくなっている。神戸はね、いいところを「潰そう」としています。だから昔からあった西洋建築の銀行など、建物が残っていたブロックがありましたがそれも今ではほとんどない。すごく格好良かった住友銀行の建物は、今駐車場になっています。
Q:へえ、あの明治の建築が駐車場に。
滑浦:そう、平気でそんなことをするんでね、これからもどんどんそうなっていくんだろうな、と思いました。新しいものももちろんいいんですが、残すべきものというのを取り違えていて、またそこに商業主義が感じられて僕は嫌だったです。駅前にはコンビニとか薬屋が並んで、昔からあった素敵な喫茶店がなくなってしまった。街はそういう風に生まれ変わると言われればそうかもしれないですが、僕にとってそれは何かが違う、と感じられる。
Q:それでも神戸にお店を開かれたんですよね?それはいつのことでしょう?
滑浦:2006年にオープンしました。僕の遊び場だったので神戸は好きでしたし、神戸に対する憧れはやっぱり持っていました。おしゃれでハイカラで、フランス料理の店も結構たくさんあって、大阪にはビストロ文化がありましたが、神戸はやはり少し違って
Q:ハイソな感じ。
滑浦:まあ昔からフレンチというと、ガストロノミーというと、というイメージですよね。何よりもクラシックなフレンチがたくさんあったんです。だから僕はそこでやりたい、勝負したいと思いました。
Q:その時のお店の名前も今と同じMontéeモンテだったんですか?
滑浦:そうです。
Q:Montéeという名前に込めた意味というのは、やっぱりMonter (上る、昇る)ということですか?
滑浦:そうですね、上がる、昇るけれども「下がりはしないぞ」ということです。
しかも結構な坂道にあった。
Q:そうか、神戸は坂の街でしたね。
滑浦:そうそう、いろいろな名前のついた坂があります。店のあった坂を上ってみたら、ビジュアル的にも結構いい感じでした。だから店の名前にも坂道にかけて思いを込めたということもありました。名前はいろいろ考えたんです。
Q:他にはどんな候補が?
滑浦:ミシュランとかゴー・ミヨなど何冊かを見ると、ほとんどの店がシェフ自身の名前を使っていた。Chez MichelとかStéphane +名字とか。でも僕は自分の名前をつけようとは思いませんでした。候補はいくつかありましたけれど、Montéeという店はなかったので「これにしよう」と。 神戸では9年間この名前で店を持っていて、こちらに来て名前を変えようかと思ったところ、マダムが「同じ名前をつけたい」と言うのでそのままにしました。まあ僕自身も嫌いではない、というか好きでつけた名前でしたしね。
Montée
Adresse : 9 rue Léopold Robert, 75014 ParisTEL : 01.4325.5763
URL : www.restaurant-montee.fr/
火-土12h-14h / 19h30-21h30 昼のコースメニュー40€(4皿と2デザート) 夜のコースメニュー80€(7皿と3デザート)