住民が直接参加する地域開発
「今の町づくりのあり方は、ル・コルビュジエの時代とは大きく変わっている」と言うのは都市工学者のスージーさん。クレルモンフェラン市の郊外で面白いプロジェクトを進めているというので、会いにいった。ミシュラン社の工場と集合住宅に囲まれた無機質な空き地。その隅の簡易な平屋が彼女の事務所だ。
「Université Foraine」という文字が躍る壁の中でスージーさんは同僚のエステルさんと図面や模型と格闘していた。ともに建築学校を終えてすぐにこの地区に送り込まれた。税金の無駄使いやゼネコンとの癒着。日本でもフランスでも、住民たちのニーズや意見を無視した公共工事に不満が高まっている。
フランスにはこうした 「ハコモノ行政」の暴走に対し立ち上がった人がいる。国立移民歴史館などを手がけた建築家パトリック・ブシャンだ。彼が設立した団体 「L’Université Foraine」は、住民による直接参加型の地域開発プロジェクトをフランス各地で展開している。自治体から委託された敷地や建物を地元のサークルや市民に開放する。そして様々な活動を通じてみんなの要望を取り入れて、どんな施設をつくるべきなのか考える。つまりプロジェクトの立案過程自体をプロジェクトとしてしまおうというのが彼らの手法だ。
もちろん旧来の 「ハコモノ」にこだわる市議会議員など、地元有力者らの風当たりも強い。だが、自分たちが主人公になってプロジェクトを考えるという運動は着実に市民たちの心をつかんでいる。スージーさんとエステルさんの現場でも料理大会、植樹などのイベントを通じて次々と市民が自分たちの技能や知恵にもとづいた提案を寄せているという。