~イタリア最南端の小さな島~ Fuocoammare, par-delà Lampedusa
『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』でヴェネチア映画祭金獅子賞、本作『Fuocoammare』でベルリン映画祭金熊賞を受賞。ジャンフランコ・ロージは世界三大映画祭制覇にリーチがかかるドキュメンタリー作家。昨年逝去した巨匠フランチェスコ・ロージ(『黒い砂漠』『エボリ』)亡き後、イタリア映画界が誇る “ロージ”といえば彼のこと。
アフリカ大陸から110キロ、イタリアのシチリア島から200キロ。地中海に浮かぶイタリア最南端のランペドゥーザ島は、難民がすし詰めの船で押し寄せる島。その希望と絶望の航路で命を落とした人は過去20年間で1万5千人にのぼる。監督は欧州のジレンマが渦巻く現代史の舞台へと向かう。
カメラが見つめるのは漁師の息子サミュエル。小枝でパチンコを作り気ままに遊ぶ少年だ。そんな少年の日常と並行して、沿岸警備隊や難民の過酷な現実も挿入される。命からがら海を渡る難民は、ラップにのせ苦悩を吐露。「なぜ危険を冒すのか、危険を冒さないと人生が危険だ」。報道では聞こえぬ魂の叫びが胸に突き刺さる。
島民と難民の生活は交わらない。だがバラバラに見える点と点は線で結ばれる。蝶番の役目を果たすのは、難民と島民双方の診療を行うバルトロ医師。やがて少年も診察に訪れ、原因不明の体の不調を訴える。それは島民の胸を巣食う不安にも重なる。ローマ、ランペドゥーザ島と、大きな主題に果敢に挑み続けるロージ監督。今回は一年以上も島に滞在し、住民と信頼関係を築いて空気のような観察者となった。些細な変調に耳を澄ますことで、時代の不穏な無意識も浮かび上がらせる。ベルリン映画祭の会見では「難民の不幸な結果は全ての人に責任がある」と断罪していたのも忘れ難い。これは現在を生きる私たちみなの映画なのだ。(瑞)