ガリア人を演じるサルコジに 元腹心顧問が裏切りの暴露書

シャルリ・エブド(16-9-28)ガリア人:忘れたい先祖。

シャルリ・エブド(16-9-28)ガリア人:忘れたい先祖。

遊遊説中に、国民戦線FN党のマリーヌ・ルペンが「フランスの自由」「人民(ピープル)の主権」などとドゴールの孫娘を演じれば、サルコジ前大統領はそのうえを行く。「我々は皆、ガリア人の子孫」と言い放つ。そういえば12年の前大統領選前にもサルコジ候補はくどいほど、「キリスト教文化のルーツ」とか「アイデンティティ」論を説き、ルペン党首のスローガンを乗っ取ったようなアグレッシブな演説を繰り返したが、その背後にはパトリック・ブイッソンという黒子がいたのだ。
ブイッソンは極右系新聞 La Minuteの元編集長、現在テレビ局〈歴史〉の社長、彼の人脈には極右勢がそろっている。07年サルコジ大統領は就任以来、ブイッソンが密着顧問となり、カルラ夫人が嫉妬するほど1日4回大統領に電話し、サルコジも携帯を耳から離すことなく黒子ブイッソンの指示を仰いでいた。「自分は彼の羅針盤、感知器、魔法使いの棒…」だったとブイッソンは自認する。
ところがブイッソンはどこにディクタホンを隠していたのか、大統領の独言や閣僚らに対する嫌みや陰口を全て録音していた。14年9月、盗聴疑惑が発覚した時、サルコジは「これまでに裏切りを何回か味わったが、これほどの裏切りに遭ったことはなかった!」とテレビのニュース番組で叫んだ。大統領夫婦の会話まで盗聴したことでブイッソンは私生活侵害罪に問われ賠償金2万ユーロを支払った。
それから2年後の16年9月28日に出版されたブイッソンの回想録『La Cause du peuple 人民の大義』*(副題:サルコジ大統領の禁じられた物語)460 頁は、ブイッソンが録音したサルコジ政権の閣僚や協力者の背後で吐いた暴言まで掲載し、共和党候補予備選挙(11/20、11/27)2カ月前にサルコジの顔にありったけのドロをぬる裏切りの回想録。当分フランス人の下世話な好奇心を満たしてくれそう。メディアに載った前大統領の破廉恥な言葉と著者の感想・分析を幾つか拾っていよう。
「フィヨン(サルコジ政権首相)? 彼は地政学者にすぎない、哀しいほど情けない、最低だ」「サルコジのディレッタンティズムは長い間、彼の教養のなさを隠すためだった」、「サルコジが獲得した”女性トロフィー”カルラ夫人に対しても”未熟、不適格、小児的”」と前元首を蔑む 。「永遠の忠臣、ゲアン元内務相は”ウイ、ムッシュー・ル・プレジダン、トレビエン、ムッシュー・ル・プレジダン”を繰り返した」。(移民・労働・内務相だった)忠臣の一人、オルトフは”無気力のチャンピオン”、(社会・住居・環境問題にも携わった)ボルロー元大臣は”優柔不断の上、怠け者”」。07年6月、フィヨン内閣新協力者たちの前でサルコジ大統領は「私は、自分が下層階級のトム・クルーズだと思っている。ラルシェ上院議長を閣僚に? それは無理だ、あまりに醜男すぎる」……。
一方、サルコジ大統領時代後も続いている07年大統領選資金ビグマリオン疑惑**にはまり込んだ元UMP総裁 ジャン=フランソワ・コペはサルコジへの恨みつらみを爆発させている(ル・モンド紙9/30)。ビグマリオン疑惑で彼の潔白が証明された今、サルコ陣営の策謀の餌食になったことに激怒し「サルコは封建的な封主、他は従者でしかない。我々は全員無能、ばか者だと決めつけている。彼は私を蔑視しない、憎悪する」。
以前の部下に対して発した憎まれ口、暴言が、活字になった今、サルコジ前大統領の予備選挙の大敵は元首相フィヨンでもジュペでもない。かつてサルコジに協力した政治家たちが敵に回っている。
“ペンは剣より強し”、周りから降ってくるサルコジ敵視の矢に立ち向かえるだろうか。本書出版直後、サルコジは「全然関心ない」と言っただけ。
しかしサルコジとブイッソンの腐れ縁はまだ切れていない。大統領顧問時代にブイッソンは自分が経営する会社に大統領関係の統計を依頼した。偽請求書を利用し大統領府に総額330万ユーロを請求した、顧問と大統領の癒着関係がなしたこの汚職疑惑もまだ解明されていない。ブイッソンは『回想録』を出すことによって、敵が攻めて来る前にサルコジをやっつけ、世論の前で優位に立つ心理作戦に出たのかもしれない。

 

*〈La Cause du peuple〉は60年代の毛沢東派の日刊紙で1968-72 / 73-78 に発行された。ブイッソンは皮肉をこめてこの新聞名を題名に使う。
**12 年選挙資金が規定額より1900 万ユーロ超過し、その罰金を旧UMP党(現共和党)が支払うべきか前候補者本人が支払うべきか解決に至ってない。
ozawa20161006a

エクスプレス誌(16-10-4 ) 特集「サルコジを打ちのめす著書」