『 Juste la fin du monde 』
『Mommy / マミー』の衝撃から2年、 “ケベックの恐るべき子供”グザヴィエ・ドラン監督の最新作だ。本作はカンヌ映画祭でお披露目された際、高過ぎる期待が負荷にもなったのか、ジャーナリストの評価は否定派が目立っていた。その一方で審査員は熱烈に支持し、結局、次席に当たるグランプリを獲得。賛否両論双方の意見もうなずきたくなる、無関心ではいられない一本である。
作家のルイ(ギャスパー・ウリエル)は12年ぶりに帰郷する。病に冒され(おそらく末期のHIV患者)、家族に寿命を告げにやってきたのだ。待ち受けるのは母(ナタリー・バイ)、妹(レア・セドゥ)、兄(ヴァンサン・カッセル)とその妻(マリオン・コティヤール)。ひとつ屋根の下にひとつのテーブル。疎遠だった家族とのコミニュケーションはぎこちない。ルイの言葉は不安と緊張、葛藤と諍いを引き起こしてゆく。
原作はジャン=リュック・ラガルスの自伝的戯曲。95年にHIVで夭折したラガルスは死後に評価され、コンテンポラリーの作家としては、現在フランスで上映される機会が最も多いという。ゲイをカミングアウトし、映画でもゲイを繰り返し描いてきたドランが、選ぶべくして選んだ戯曲なのだろう。
とにかく出演者が豪華。ドラン自身が子役上がりの生粋の俳優だからか、俳優を喜ばせる術を心得ているようだ。密室で繰り広げられる喜怒哀楽の応酬は、俳優にとって大いに演じがいのある心理劇ではないか。それをカメラがクローズアップで執拗に追い続けるので、見る側は少々息が詰まる。ドラン27歳、長編6本目で「死」を意識した本作は、これまでのほとばしる若さから一転、急激に老成もしている。ただし全編を覆い尽くす圧倒的な熱量はそのまま。それは若き鬼才による映画への激しい情熱の反映に見える。彼の授賞式での涙声のスピーチを思い出した。「映画が好かれるか否かに関わらず、私はこの残りの人生全ても、映画を撮り続けるだろう。『私は無関心の賢明さより、熱情の狂気を好む』と、アナトール・フランスが言ったように」。(瑞)