Navigoで行くパリからの散策
メトロやバス、RER、トラムなどが乗り放題の定期 「forfait Navigo」。昨年から仕組みが変わり、一律料金(月額73€)でイル・ド・フランス圏内のゾーン1~5を自由に行き来できるように。普段はパリ市内の移動のためだけにNavigoを持つ人でも郊外に出かけやすくなった。そこでゾーンを気にせず楽しめるNavigoを使った散策を提案したい。
向かうはゾーン3のRER-C線Meudon Val - Fleury駅。ムードンと言えばロダン美術館別館もあるが、今回の目的はFondation Arp(アルプ財団)。ダダイズムの創始者のひとりで彫刻家・詩人のジャン(ハンス)・アルプ(1886-1966)が、芸術家の妻ゾフィー・トイバーと住んだメゾン=アトリエだ。駅から15分ほど歩く道中に、パリではあまりお目にかかれない一軒家が点在する。注目はCharles Infroit通りにある美術家テオ・ファン・ドゥースブルフの幾何学的な白い家。彼は芸術運動デ・スタイルの提唱者でアルプの親友だった。
さてアルプ財団に着いたが、入り口の門は堅く閉ざされ、普通の家にしか見えない。だが一応「Fondation Arp」とあるのでブザーを押すと、地味に「ジー」と鳴り鍵が開く。商売っ気はゼロだ。やはり中も見学客はまばら。あとでスタッフに聞くと、以前観光局からピンク色の看板が設置されそうになったが、反対して退けたとか。隠れ家的雰囲気も納得だ。
さてアルプ財団に着いたが、入り口の門は堅く閉ざされ、普通の家にしか見えない。だが一応「Fondation Arp」とあるのでブザーを押すと、地味に「ジー」と鳴り鍵が開く。商売っ気はゼロだ。やはり中も見学客はまばら。あとでスタッフに聞くと、以前観光局からピンク色の看板が設置されそうになったが、反対して退けたとか。隠れ家的雰囲気も納得だ。
庭園には至るところにアルプ作品が。目を引くのは、高さ3 . 2 mの代表作「Berger des nuages 雲の羊飼い」。妖精からインスピレーションを受けた作品で、自身が「Art concret具体美術」と呼んだ芸術の実践の成果である。他にも丸みを帯びた物体が点在するが、黒くても人懐っこい印象。まるで可愛い宇宙人のよう。一方、赤い窓枠がアクセントの石壁の家は、建築家でもあったスイス人のゾフィーが設計を担当。自然に対するリスペクトと、機能性が同居するのがスイスらしい。
向かいには平屋のようなアトリエが建つ。中に並ぶ作品の形状は奇々怪々だが、抽象的でも精霊の息吹を感じる。ムードンの森の隣にあるのは偶然ではないだろう。アルプは一貫して自然や詩的なものを賛美するように制作を続けた。アルザスに生まれ、戦乱時にドイツとフランスの狭間で生きたからこそ、戦争や機械文明の愚かさに背を向けたのだろうか。
家の方には趣味のよい調度品の間に、夫婦の作品が仲良く並ぶ。古い写真には茶目っ気たっぷりの二人の姿も。庭園で撮影された写真では、ジェイムズ・ジョイスやマックス・エルンストと一緒にお茶を楽しんでいる。この場所はダダやシュルレアリスムのスターたちの交流の場でもあったという。今は静かな創造の夢跡に立ち、前世紀の芸術の残り香を胸いっぱい吸い込んだ。(瑞)
■ Fondation Arp
21 rue des Châtaigniers 92140 Clamart
http://www.fondationarp.org
駅から徒歩15分。
入場料:一般 10€/学生 7€
金、土、日 14h-18h
■ La Maison Van Doesburg
29 rue Charles Infroit 92190 Meudon
http://vandoesburghuis.com/fr/
美術家テオ・ファン・ドゥースブルフのメゾン = アトリエ。