コーエン、ダルデンヌ、タヴィアーニと、巷には有名な“兄弟”監督は多い。だがフランス人デルフィーヌ&ミュリエル・クランは珍しい“姉妹”の監督コンビだ。初長編の前作『17 filles』では集団妊娠を企てた女子高生を描き話題に。5年ぶりの新作もまた “女性性”がキーワード。主人公はふたりの女性陸軍兵士である。
マリンヌとオロールは同郷の幼なじみ。タイトル「Voir du pays(国を見る)」が示すように、おそらくは世界を見届ける気持ちで戦線に加わった。アフガニスタンで半年の任務を終え、他の兵士とともにキプロスのホテルに滞在する。映画はこの数日間を追う。
ふたりは非日常から日常へスムーズに戻るための特別プログラムを受ける。ジムやリラクゼーション、観光に加え、戦闘の記憶を告白・共有する会に加わる。ここでは専用ゴーグルを付けた兵士が、戦争の記憶を再現した仮想現実の映像を直視する。帰還直前にトラウマを一気に吐き出させる荒療治のようだ。
戦争映画に「見る」が付けば、「私はヒロシマを見た」「いや何も見なかった」の掛け合いで有名な『ヒロシマ、モナムール』を思い出す映画ファンも多そう。本作はどこかこのアラン・レネ作品への半世紀後の返信にも見えてくる。今や女性は自ら進んで男性と同じ迷彩服に身を包む。そして世界を見るべく戦地に赴くが、兵士の立場で見える視界は狭く、結局は「何も見えない」。残るのはトラウマばかり。しかも戦地から戻ったところで、女性は性暴力に晒(さら)されることもある。この現実的で冷静な分析こそが女性監督らしい。戦場は映されないが、この時代が必要とする重要な戦争映画。カンヌ映画祭「ある視点」部門脚本賞受賞作。(瑞)