クレー作品を貫いた精神は 「皮肉」だという。その夢想的な作品からは想像できないテーマで作品分析をした本展は、クレーの回顧展の中でも出色のものだ。
作品には、描かれた当時の出来事と題名の由来の説明が付いている。これなくして作品に込められた意味はわからない。カンディンスキーへの皮肉として口を四角に描いた絵とか、クレーが教授をしていたバウハウスを訪れたマレヴィッチへの皮肉を込めて描いた絵などは、そう言われて初めてそれに気が付く。ハイライトは、クレーにとって「ライバル」であったピカソとの対決だ。クレーがピカソを意識して、作品の中で皮肉を効かせてピカソをチクリと刺し、ピカソに刺激されて作品が変化していったのが面白い。
クレーは内向的な野心家で、ピカソのような才能のある他の画家に嫉妬し、世間を斜めに見て、外からはわからないような方法で社会や彼らを皮肉の対象にした。
本展の技術的な分析も興味深い。チュニジア旅行中に描いた水彩では、紙を板に止めたときに使ったゴムの跡をそのまま白く残している。絵を切って、切った部分をずらして組み合わせたりと、さまざまな実験をしていたことを見せるビデオが会場内にある。こちらもぜひお勧めしたい。(羽)