第69回カンヌ映画祭報告
「映画は芸術。スポーツではないから競争はいらない」と、コンペティション部門に背を向けるウディ・アレン。そんな彼の最新作『Café Society』(非コンペ作品)で幕開けたカンヌ映画祭は、テロの脅威にひるむことなく、5月22日に12日間の映画マラソンを完走した。
アレンが何と言おうが、カンヌのゲームの規則は最高賞パルムドールを決めること。今年は英国人ケン・ローチの『ダニエル・ブレイク』が栄誉に輝いた。心臓病を抱えるが福祉手当を受けられぬ大工の男を通し、弱者を疎外し成り立つ社会の実態を鋭く突いた作品。非の打ち所なき感動作だが、ローチは『麦の穂をゆらす風』に続き同賞受賞は2度目で、演出はこれまでの作品の延長上にある。他作品が受賞した方がしっくりくると感じた。
批評家に抜群の人気を誇ったのは、ドイツ人マレン・アデの『Toni Erdmann』。ビジネスウーマンとして世界を股にかけ働く娘と、疎遠だった父との関係を描く2時間42分のコメディ・ドラマだ。他にもペドロ・アルモドバル『Julieta』(現在劇場公開中)、ジム・ジャームッシュ『Paterson』、クレベール・メンドンサ・フィリオ『Aquarius』の無冠には不満の声が漏れた。
一方で低評価のグザヴィエ・ドラン、オリヴィエ・アサイヤス作品が、それぞれグランプリと監督賞を獲得しブーイングも起きた。審査員とジャーナリストの感性が不協和音を起こすなか、フィリピン人ジャクリン・ホセの女優賞は特別深い感動を呼んだ。彼女は鬼才ブリランテ・メンドーサの『MaRosa』で、生きるため麻薬の密売も厭(いと)わぬ家族思いの肝っ玉母さんを熱演。共演した愛娘と涙目で壇上にあがり、授賞式会場は感動の一体感に包まれた。(瑞)