Chers Grands Voisins… Vivons ensemble à Paris !
閑静な、または少々閑散とした、14区のダンフェール・ロシュロー通り。しかし今、この通りにある、かつての産科病院サン・ヴァンサン・ド・ポールに、毎週末多くのパリジャンが足を運んでいる。理由は、3.4ヘクタールの敷地に17世紀の建築が15棟残る病院跡地を利用して生まれた『Les Grands Voisins』(レ・グラン・ヴォワザン)だ。
「ここは、毎日約1000人が行き交う、いわばひとつのvillage (村)です」と語るのは、2011年末の病院閉鎖前から敷地の一角でホームレスや移民などへの住居・生活・社会復帰支援活動を行う団体 Aurore(オロール)。現在、建造物の約7割を同団体が緊急避難施設として運営しており、250人の若年移民労働者を含む約600人が寝食を共にしている。
レ・グラン・ヴォワザンがパリの他のシェルターやいわゆる低家賃住宅と一線を画しているところは、同じ敷地内に新進気鋭アーティストや若き起業家という“隣人”も生活しているところだ。廃病院の一時的な文化・経済活動への利用をとりまとめているのは、2013年より運営に加わった団体 Plateau Urbain。不動産の高騰が止まらないパリの、しかも中心部に拠点を持つことができた、幸運な115のアトリエ・オフィスへ約300人が日々通っている。
気になるレ・グラン・ヴォワザンの家賃・賃料は、およそ年200€/㎡(近隣アパルトマンの平均は年370€/㎡程度)。その収益は、広大な敷地と建造物の維持費(なんと年100万€!)に充てられている。ちなみに、オロールは住民に対して仮住居を与えるとともに、食事、調理や仏語、PCなどの実習クラス、スポーツやBBQなどのレクリエーションなども提供しているが、住民自身がその運営に参加することで報酬を得て家賃の補充とし、社会復帰の第一歩とするプログラムも導入している。
さらなる運営資金の捻出のため、また「地域の、そしてパリのすべての“隣人”にとって公共の場所であるため」に、レ・グラン・ヴォワザンは2015年末より一般にも開放中だ。公共スペース開拓を行う団体 Yes We Camp が運営するカフェ・バーLa Lingerieでは、破格の価格(ランチ5€~、生ビール2.50€~)で飲食できると
すでに話題に。また、同団体による積極的なイベント誘致が功を奏し、毎週末なにか新しいことに出会える、と幅広い層のパリジャンが集まるようになっている。
左岸らしいシックな老夫婦、ボボな家族連れ、ヒップスターな若者、アフリカ系移民、ホームレス、失業者…。同じパリで暮らしながらも、日常的には本当の意味で交わり合うことのない人々が“隣人”だったら?そんな“実験ヴィラージュ”でしか目にできない光景は、昨今ますますその困難さを増しつつも、フランス人の根源に宿る vivre ensemble(共に生きる)精神の具現化のようでもある。
「これからの都市生活におけるひとつの可能性を、フランス、そしてヨーロッパ全体に提示することができたら」と、ますます活発な動きを見せているレ・グラン・ヴォワザンは、2017年末予定のパリ市による écoquartier (エコ・カルティエ)施工までの期間限定。ぜひ一度、実験の目撃者に!(裕)
Les Grands Voisins - Ancien hôpital Saint-Vincent-de-Paul
Adresse : 82 avenue Denfert-Rochereau, 75014 Paris , Franceアクセス : M° Denfert-Rochereau / RER B:Port-Royal
URL : lesgrandsvoisins.org
最新情報や週末イベントなどはホームページとニュースレターで確認。 敷地内ガイドツアー 毎週日曜日15h~16h、参加費は自由価格。