この季節は室内でも足元が冷えて暖かい靴下が欲しくなる。フランスで1年に販売される靴下3億6千万足のうち輸入が95%を占めるが、国内靴下製造でブルーフォレに次ぐ2位、100%国産のラボナル社(Labonal)をアルザス地方に訪ねた。
ストラスブールから南西に50km。城壁に囲まれた中世の町ダンバック・ラ・ヴィルはワインの町だ。人口はわずか2000人だが、ワイン製造者が60軒もある。ラボナル社の向かいの丘にもブドウ畑が広がり、独特のコロンバージュ(木骨構造)の家々とともにのどかなアルザスの風景が広がる。ここに亡命ロシア人が1924年に創業したのがラ・ボネトリー・アルザシエンヌ社(La Bonnetrie Alsacienne)で、その頭(La-bon-al)をとったのが後の社名となった。70年代には1000人を雇用し、年間1500万足を生産したが、安価な輸入品に押され、96年にキンディー社に買収された。99年の工場閉鎖の危機に、社員だった現社長のドミニク・マルフェさんらが買い取ってラボナル商標を復活させて今に至る。
そのマルフェ社長自らが社内を案内してくれた。まずは、デザイン・マーケティング部門。6人のスタッフがモードの傾向を元に年2回のコレクションを決める。そのデザインをプログラマーがデータにしたUSBメモリーと必要な糸を編機にセットすれば、自動的に靴下が編みあがる。事務所も入れて1万2000m2の広い工場には120台の丸編機がずらりと並んでいて壮観だ。デザインに応じて1色から数色の糸ボビン(綿、ウール、化繊、麻など糸は主にイタリアから輸入)が機械の上方にかけてあり、無数の編み針(機械により200~680本もある!)が円形に並んでいる。1足編むのに4~5分というからものすごい速さだ。履き口が折返しになったもの、裏表を別の糸で編むもの、無地、柄物、さまざまな編み方に応じた多種類の編機がある。 こうしたすべての機械の整備・調整をする技術者アンドレさんは、勤続38年。「メカ式からコンピュータ制御機、エア方式併用の最新機まで、時代に応じた機械の面倒をみてきた」と誇らしげだ。以前はつま先部分を閉じる「リンキング」は別の機械でしていたが、最新の機械ではその過程まで一気にでき、閉じ目がないのでかさばらない履き心地になる。ただし、商品モデルによっては編みとリンキングの2段階方式も採用されている。
編み上げられた靴下は作業者が一枚一枚、足を逆さにした形の型にかぶせると、スチームアイロンがかけられて折りたたんだ形で出てくる。そして、次の機械では、作業者がペアにして重ねたものに紙ラベルが縫い付けられる。ラボナル社は、山歩き用のマダニ・蚊防止の特殊加工をした機能性靴下も製造しており、その場合は虫除け効果のあるペルメトリン希釈液に編み上げた靴下を浸してから洗浄する工程がプラスされる。
5年前までは量販店ブランドの安価な製品が80%を占めていたが、現在はその割合は30%となり、高品質商品にシフトしている。残り70%の自社ブランド品は全国の小売店や直営店3店と車両移動店2店やインターネットで販売する。年間生産高300万足、売上800万ユーロ、社員105人。「経営は大変だが、今後は輸出やデパート向け、直営店拡大に力を入れて売上1000万ユーロを目指す」とマルフェ社長は意欲的だ。(し)