料理、そして人との幸運な出会い。

渥美創太さん(29歳)
chef地元千葉県の高校時代にはプロを目指すほどスノーボードに熱中していた渥美さんは、不運な骨折により進路変更を余儀なくされ、担任から薦められた専門学校リストからフランス料理を選ぶ。ただ、食べることは好きでも、料理をすることにはそれほど関心がなかったという。 学校から送られてミッシェル・トロワグロの店での 「とにかく楽しかった」研修中に、フランス、そして料理に対する何かがきっと渥美さんの中で弾けたのに違いなく、渥美さんはトロワグロの店へ残ることを志願する。
その後パリへ来て、人との良い出会いにいつも恵まれながら、渥美さんは今も「楽しくて仕方がない」毎日を過ごす。土日も営業する人気店で1日2度のサービスをこなし、休みの日には配達されてくる野菜を仕分けながら料理のイメージを膨らませ、夜の片付けの後に肉や魚を注文する。伝統的なフランス料理が好きで、自らの料理もクラシックだと評し、自分は習ったことしかしていないと謙遜する渥美さんの料理を、彼を知るシェフの一人は独創的だと評価する。
独り立ちをするのは「まだ10年早い」と冷静な判断をする渥美さんがいつか開く自分の店とは一体…渥美さんの人柄を思い出しつつ、私は想像をめぐらせる。(海)
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インタビュー全文は下記から:

お店流行っていますね?いつからここでお仕事を?
渥美:Saturne(パリ2区にあるレストラン)のオーナーがこの店を買った、1年半前からです。

人気のお店だから要予約だと友人に言われました。
渥美:夜はそうです。2週間ぐらい前から埋まってはいますが、テラス席は予約制ではないし、うちはガストロノミーの店じゃないので、席が空いていればどうぞ、というスタイルです。

ガストロノミーじゃない?ガストロノミーとの違いは何ですか?
渥美:いわゆる高級料理店とカジュアルな店の違いです。うちはカジュアルで、Passage53さん(この欄でのインタビューに答えてくださった佐藤伸一さんのお店)とか、Pagesさん(やはりこの欄でインタビューに答えてくださった手島竜司さんのお店)などはガストロノミーだと思います。

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そもそもなぜ料理を?
渥美:高校の時にスノーボードをやっていて、プロになりたいと思っていたのに首の骨を折ってできなくなりました。進路を決める際に先生から専門学校はどれがいい?と聞かれ、美容師とか調理師とかあったんですが、たまたま辻調理学校を選んで、フランス校でも勉強をして、そのまま料理人を続けようと思った、という感じです。

たまたまだった?
渥美:そうです。昔から料理をやりたいとはそれほど思っていなかったです。

食べることが好きだったというわけでもなく?
渥美:いや、食べることはもちろん大好きです。

辻、ということは大阪?それとも東京ですか?
渥美:東京です。

ご出身は?
渥美:千葉です。18から19までが東京の国立校で、19から20までがフランス校、リヨンです。

リヨンはボキューズさんとつながっている学校?
渥美:そうです。

するとボキューズさんのところでも研修を?
渥美:俺はしていないです。俺はMaison Troisgrosトロワグロ(Roanne ロアンヌにある、ミシュランでの三ツ星を長年獲得しているガストロノミーレストラン)で研修をして、卒業してそのまま2年ぐらい働きました。

トロワグロの後にパリへ出ていらっしゃる?
渥美:そうです。学生ビザの更新が難しくなって、ステラマリス(パリにあったフランス料理店、ミシュランで日本人シェフとして初めて星を獲得した吉野健さんのお店)の吉野さんに紙をとっていただきました。その後は、ロビュションさんのラボ(l’Atelier de Joël Robuchon)です。そこで1年半ぐらい働いて、その次にRestaurant Toyo(先月お邪魔した中山豊光さんのお店)へ、そしてその後にVivant というピエール・ジャンクーさんの店を経て、今の店です。

毎回ご自分で店を選んでいる?
渥美:たまたま、すべて誘われてです。吉野さんに誘われ、今は日本で独立されている須賀陽介さんに誘われてロビュションさんの店へ。そして豊さん、ピエールさんに誘われて、ズヴェン(Sven Chartierさん、レストランSaturneのシェフで渥美さんのお店のオーナー)に誘われて、という具合に全部誘われています。あまり自分で「ここで働きたい」と思って働いてはいません。

でもトロワグロのお店には自分で残りたいと思った?
渥美:そうですね、とてもよかったので、研修の後に自分で残りたいと言いました。

ボキューズではなくトロワグロ、それはなぜ?
渥美:学校が勝手に決めたので。

じゃあ、他の店に行っていたら…
渥美:もうフランスにいないかもしれないですね。わからないですけれど、楽しくなかったらいなかっただろうな、と。トロワグロが本当に楽しかったので。

今おいくつですか?
渥美:29歳です。フランスに来てちょうど10年です。

どうですか、フランスは?
渥美:楽しいです。最初からフランスが好きなので、来た時から、トロワグロで働いていた時からずっと楽しいです。

スノーボードをしていた時にはフランスに来るなんて考えていなかった?
渥美:まったく 。まさかフランスで働くことになるとは思っていませんでした。

調理学校に入ってから料理を意識し始めた?
渥美:そうです。自分はフランス料理専門カレッジみたいなところへ行っていました。和食も中華もやっていないです。大阪校では和食も中華も、卒業したら調理師免許がもらえます。僕が通っていた学校はフランス料理のみで、栄養学なども勉強しません。その代わりに卒業しても調理師免許はとれないという仕組みです。

知識よりも実地で、という仕組み?
渥美:そうです。ちょっと変わったコースで、逆にいえば厳しい料理教室のようなものです。 1年間びっちり叩き込まれるので、みんなすぐに仕事ができるようになります。フランス料理に関しての知識も得られるし。

同期でフランスにいらっしゃる方は?
渥美:いませんね。日本で頑張っているのが一人います。まあ全員とは連絡を取っていないので、もしかすると続けている人もいるかもしれません。

一期にどのぐらいの人数がいるんですか?
渥美:1000人ぐらいです。

そんなに!それは調理部門と製菓部門という感じで?
渥美:いや、調理部門のみです。とにかく数が多いので、クラスの人しか関わりがなかったです。

ところでフランスにいらして、これまでに記憶に残っている出来事や人というのはありますか?
渥美:いっぱいありますよ、人とは。やっぱり吉野さん、ロビュションさん、豊さん、ピエールさん、引き抜いてくれた人たちのことは自分の中に良い思い出として残っています。あとはどうでしょう、それほどないかもしれないですね。というか、常に楽しいので。

常に楽しい?
渥美:ええ。

いいですね、常に楽しいというのは。くじけたりしたことはありませんか?
渥美:ありますよ、もちろん。先輩に怒られたりすることはあったし、そういう時には落ち込んだりしますけれど、それほど引きずりはしません。

割にポジティブに考えるほう?
渥美:そうだと思います。

あまり落ち込まない。そのほうがいいですね。
渥美:気楽な感じで。

ご自分の料理をどのように考えていらっしゃいますか?気になっていたのは、この前お会いした中山さんが「渥美くんはね、クラシックでも創作でも両方いけるんですよ」とおっしゃっていたことです。例えば「創作」ということになるとどういうことをご自分の創作の糧にしていらっしゃるんでしょう?何かインスピレーションの源がある?それとも直感ですか?
渥美:インスピレーションの源というのはあまりありませんが、 自分だけで考えるのではなく、一応スタッフのみんなとこうしたらああしたらと話をしています。「今日、こういうの食べたくない?」「良いね」「じゃあやってみようか」という風に会話をしながら決めていきます。そこから揃っている食材を見て、ですね。野菜などは、一週間に一度配達されるAnnie Bertin(アニー・ベルタン:ブルターニュ、モンサンミッシェル近くで野菜農家を運営する人物、地元だけではなく、パリなど他地方のシェフたちからも注目を浴びる生産者)のものしか使っていません。もちろん足りないものは、やはり同じ考えで仕入れる店から分けてもらったりしています。魚と肉はもちろん毎日いいものを入れるようにしていますが、特にこれを、というのではなくて「値段はこれぐらいで、何キロ、いいのを頂戴」という頼み方です。ですので、Ris de veau (子牛の胸腺)でない時にはFilet de boeuf(牛フィレ)が届いたり。だったら、フィレとこれを使って…ソースはだいたいクラシックにJusジュをとってもちろんFond de veauフォン・ド・ヴォーをとって…など、ベースを作っておいて、肉などを調理して仕上げるということになります。

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お昼のメイン、子牛の胸腺に寄り添っていたパルメザンの泡というかムースというのも、今朝の発想で?
渥美:そうですね、「パルメザンから作っておいて」という感じで作ってもらって。それほど手の込んだことはしていません、シンプルです。

胸腺の焼き具合、抜群でした。
渥美:ありがとうございます。

初めてお伺いしたので、初歩的な質問で申し訳ないのですが、メニューは日替わり?
渥美:そうです。続いて翌日も同じものということもあるので、一週間を通して全部が変わるというわけでもありませんが、付け合わせもソースも違えて出すようにしています。

すると、ある程度ご自分で組み立てながら作っている?
渥美:そうです。

配達されたものを見ながらすぐに発想が生まれるというのはすごいですね。
渥美:それをしないと、すぐに見捨てられる、ということはあります。常に、どんどん変えていかないと、考えることをやめてしまうと…お客さんにはすぐ見抜かれます。

ここは常連さんが多いですか?
渥美:夜はすごく多いです。レストラン関係、同業者も結構います。

いつかはご自分のお店を、と思っていらっしゃいますか?
渥美:今は思っていません。とりあえずまだここでもう少し、そしてもう1店舗、それはここのオーナーまたは誰かとなんですが、そういう話もあリますし…

もう1店舗ということは、2店舗を同時に?
渥美:そうです。まあ、自分が新しい方へ行って、代わりにシェフをここに置いて、という感じです。

ご自身はここを監修しながら? どんどん責任が重くなっていきますね。
渥美:大丈夫です。お客さんは、ちゃんとやっていれば来てくれると思うので。

でもやっぱり将来は自分のお店を?
渥美:考えています、もちろん。40歳ぐらいになったら、かな。

まだ10年ありますね。
渥美:ちょっとゆっくり。あまりお客さんをバンバン入れる店じゃなくて、10名ぐらいのこじんまりした店を。

自分の店は、今みたいに忙しくはしたくない、ということですか?
渥美:したくないです、絶対に。

それはなぜ?
渥美:やることがたくさんあると思うので、すると今のように60名を、というわけにはいきません。

ここは平均でどのぐらいの人数を?
渥美:昼は平日40から50人で、土日は60名ぐらいです。夜はいつも70名ぐらい。
夜は7時から開いているので、10時過ぎのラストオーダーまでひっきりなしにお客さんが出入りします。だからトータルで70名ぐらいにはなってしまいます。回転しているイメージはありませんが、7時に来たお客さんが9時に出たら、予約がなくても別のお客さんが入ってくれて…という感じです。

お店自体はそれほど広くないですよね?
渥美:テラスを入れて35席ぐらいです。きちきちに詰めて40席ぐらい。

朝は何時にこちらへいらっしゃるんですか?
渥美:9時です。

終了は24時ぐらい?
渥美:店自体はバーとして2時まで開いていますが、厨房はもう少し早く終了します。25時、朝の1時ぐらいですか。

お店の定休日(月曜日と火曜日)にはしっかり休める?
渥美:はい、と言っても火曜日には配達があるので野菜を片付けます。ブルターニュから直送してもらっているので。

仕分けながら、料理のイメージを?
渥美:そうです。「これと、これを、どうやって使おう」みたいなことを。アニー・ベルタンをみんな最近使っていますけれど、量的に言えばうちがおそらく一番多くて、毎回15ケースは届きます。水曜日にこの作業をすると、他にもすることがあって終わらなくなってしまうので、休みの火曜日にゆっくりしています。

フランスの食材はどうですか?
渥美:俺は大好きです。

どこが好きですか?
渥美:力強いです、やっぱり。全部、肉もやっぱりフレッシュだし。フランス、パリで使う日本の肉やスペインの肉は、真空されているのが僕は嫌なんです。新鮮な状態で、ただ紙で包んだものを自分でさばく、調理するのが一番だと思っています。真空されると一度人の手が入る、骨も外れているし、焼きにくいし…ということで、フランスで料理をするならばフランスの食材が一番いい、と基本的には思っています。もちろん真空されたものもたまには使うんですけれど…

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例えば?
渥美:スペイン、ガリシアのOngletオングレ(牛の部位、フィレ肉のすぐ下部分)をたまにとったりします。食材を変化させるという目的で「あれを買ってみようかな」という具合にです。ただ基本的にはフランス産が主流です。

食材を選ぶのは全て渥美さんが?
渥美:そうです。

値段との相談も全てご自分でされている?
渥美:そうですね。

立ち入った話になってしまって申し訳ないのですが、ここの経営のお財布があるとすれば、仕入れに対してはこれだけ、という形で別のお財布を渡されるということですか?
渥美:いや、もう好きにやってくれ、という感じです。

いいですねー
渥美:もちろん原価率というような常識を踏まえて。それさえ外さなければ問題はないです。

常識を外すということはどういうことでしょう?
渥美:例えばサービスなどで大判振る舞いをしてしまうとか、セープ茸など高級素材をふんだんに使うとか、魚でも一つの皿にすごい分厚い身を出すとか、そういうことです。

値段もご自身で決めていらっしゃる?
渥美:自分です。

となると、料理をしながら経営のことも考えて?
渥美:一応は考えています。ワインは俺も好きだから、「これ買って」「こんなの揃えてよ」というような注文はします。この店は俺とソムリエ兼店を切り盛りしてくれるグザヴィエとで回しています。

どうしても使いたいけれど、高すぎて使えなかった食材というのはありましたか?
渥美:使ったことはないですけれど、高いな、と思うのは和牛ですね。

でも、今日は和牛がメニューにはありましたよね?
渥美:あれは、スペインの「WAGYU」なんですよ。チョリソーなんで。

日本から種を出してはいけなくなった前の和牛ということですね?
渥美:そうそう、それです。でも僕自身は今の和牛を食べるのはあまり好きではなく、フランスの牛のほうが個人的には美味しいと思っています。

フランスの牛肉だと、どこのものが美味しいと?
渥美:いや、どこのものも好きですね。LimousinリムザンもSalersサレルスもAubracオーブラックも全部。仕入れ先はみんな3-4種類を持っていて、その時の一番いいのを、これが今週はい一番いいよ、という風に。どの産地でも日によって差があると思うので、信頼して任せていいものを持ってきてもらうようにしています。

どこから仕入れていらっしゃいますか?
渥美:三つぐらいの業者からです。豚は全て生産者から直接で、ビゴール(ピレネー)の豚は一度に半匹とか。

そういう美味しいものにはどうやって開眼されたんですか?自分で足を運んで?
渥美:ピエールさんが、いろいろなところを一緒に回って見せてくれました。例えば今野菜を仕入れているブルターニュのアニー・ベルタンにも会わせてくれたし、あとはArdèche(アルデッシュ県、フランス中南仏)とか、ピエールが好きなDrôme(ドローム県、フランスの中南仏)の小さな生産者などを紹介してくれました。今でもその生産者たちとは繋がっています。引き継いで仕事をしている、というか。

お魚は?
渥美:Terroir d’avenir(パリ2区にある生鮮食品を扱う店で、肉、魚、野菜などは独自でセレクトした生産者直の仕入れをしており、シェフたちからも注目されている)からです。手長海老などは別なところから仕入れたりしていますけれど、基本的にはTerroir d’avenirから仕入れています。

あそこは生産者から直接ですよね?配達は夜中に?
渥美:いえ、朝持ってきてくれます。夜発注して、翌朝に持ってきてくれる。店を終えながら夜計算して発注するのは少しきついんですが、Terroirが個人的には一番いいです。付き合いも長いし、ものもいい。

フランスにいらして「これはすごい!」という食材はありますか?先ほど「力がある」とおっしゃっていましたけれど。
渥美:だいたい美味しいです、果物は特に安くて美味いじゃないですか。あとは、鳩も鴨も、全部日本より美味しいですよね。

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そういえば日本の学校ではフランスの食材を使っていたんですか?
渥美:結構使っていました。

それが真空パックだった?
渥美:そうです。だから今でもそれほど美味しいと感じない。あの時にはまあ「こんなものか」という感じだったんですが、実際にトロワグロなどで使っているものを食べると「凄い!」となる。

トロワグロは地産地消のポリシーを持っていますよね?
渥美:そうです、ほとんど周り、近くからの食材を使っている。生産者の顔を知ることが大切だということは、本当に勉強になりました。

こちらにいらしてからずっと楽しかったみたいなので、日本へ帰りたいと思ったことはなかった?
渥美:なかったです。日本に帰ってもいつも楽しくはないかもしれない。最初は楽しいですけれど、1週間ぐらいしか続かない。でも今回は企画したイベントがうまくいったので楽しかったです。

イベント、何を?
渥美:Sonya Parkソニア・パークさんが持つARTS&SCIECEという洋服のブランドとカフェで(東京、南青山)、パリで活動する料理人三人が一緒に料理を作る、というイベントでした。

それはファッションイベント?
渥美:いや、ただ単にカフェで料理を作る、という2日間でした。すごく面白くて、いろいろなお客さんが来てくれて、反響も多くて、とても楽しかったです。その流れで築地へ行ったりして、だからこのたびの日本はとても楽しくて充実していました。

イベントの言い出しっぺは誰?
渥美:それは俺とARTS&SCIENCEのソニアさんです。「やらない?」というような話はソニアさんからもらっていました。だから残りの料理人二人に 「一緒にやりませんか?」と声をかけた。

日本でイベントをするのはやっぱり嬉しい、楽しいですか?
渥美:日本の友達とか、親もそうですけれど、普段その人たちのために料理を作れない人が来てくれるのは嬉しいです。それからお世話になっている方たちが来てくれると、やってよかったな、と思いますし、これからもやるべきだな、とも思います。

夏休みを利用して行かれた?
渥美:ええ、毎年いつも何かを。白金台で店を切り盛りする仲間のシェフと組んでイベントを開いたりもしています。

そういう時にはフランスから食材を持っていく?
渥美:持って行けるもの、例えばピクルスを作ったりとか、作るのに時間がかかるものは準備、真空して持って行ったりもします。

野菜などは
渥美:大体向こうで、その方が絶対いいと思っています。

日本の野菜はフランス料理を作ろうとすると、くにゃっとしてしまう、とどなたかがおっしゃっていましたけれど…
渥美:ビーツはこちらでは1時間ぐらいかけなければ火が入らないのに、日本では15分ぐらいで火が入る。そういうことはままあります。「あれ、もう!?」というようなことです。玉ねぎもすぐにしなったりとか、焼くと水気でびちゃびちゃになってしまう、とか。それはそれで面白いですけれど、そのへんの違いはわかっていなければ…でしょうね。 まあそのためにやっている、ということもありますし。美味しかったですよ、きゅうりなんて本当に。賀茂茄子、水茄子も美味しいと思いました 。

ご自分の料理ってどこの料理だと思いますか、フランスの、日本の?
渥美:基本的にはフランスの料理です、俺はクラシックが好きなので。だから基本的には食材のさばき方とか、ソースにしても全てクラシックで、習った通りにしかやっていないです。
それが一番いいと思っています。ズヴェンとか豊さん、豊さんは少し日本的なやり方だと思いますが、それからステラマリスにロビュション、そしてトロワグロと考えた時に、俺としてはやはりステラマリスやロビュション、トロワグロなどのクラシックが一番合っているかな、と思っています。もちろんそれらを俺なりに分けて使っていますけれども。でも大体は習ったことからですね。あとは最新の技術なども少しは使ったりします。

習った料理の基本が今の料理ではあまり重視されていない、とおっしゃっていたシェフがいました。それについては?
渥美:フランス料理自体が変わってきているのかもしれないです。でも、最近のフランス料理の若手のトップもみんなクラシックができるので新しいことをしている。みんな、誰よりもクラシックができるんです、知らないとできないじゃないですか。

やっぱりクラシックの基礎があるからこそ、次に行ける。
渥美:そうだと思います。知っているからこそ新しいものを築ける訳で、知らないと訳がわからない形になってしまう。外国人がいきなりフランス料理のシェフにはなれないです。だからこそ、知っているからこそ別のことをする、というシェフのレベルはすごく高いです。

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パリから出たいと思ったことはないですか?
渥美:ないですね。地方はあまり好きではないです。

トロワグロで修行をされていても、ですか?
渥美:旅行ではいいんですけれど、友達もいないし、遊ぶ場所もない…というのが辛い。休みの日はテレビでサッカーを観るだけ、というのはつまらないですね。

でも、田舎だとアウトドアで釣りとか色々と楽しいことがあるかもしれない。
渥美:それはそうですが、パリからも行けるじゃないですか。

行ってみたい場所というのは?先ほど後10年は自分のお店を持たない、とおっしゃっていましたが、今だからこそどこかへフラーっと行ってみたい場所というのはありますか?
渥美:南米、ペルー。面白いとよく聞くし、ワインもチリとかあの辺のものは美味しい。アルゼンチンのワインも大好きだし…行ったこともないので行ってみたいな、と。

こちらに来てヨーロッパはある程度回りましたか?
渥美:ええ、ヨーロッパは、一通りは行っています。

思い出に残った場所、というのは?
渥美:ベタですけれど、シチリアですかね。あそこはもう、面白かったです。
夏、超暑い時に行っていました。

どのぐらいの期間?
渥美:2週間。現地にシチリア出身のイタリア人の友達がいて、その人の家に泊めてもらいました。
パレルモはあまり好きじゃなかったですけれど、ご飯はおいしかったですねー。面白かった。暑かったけれど、いいところですよね。

他には?
渥美:海外で思い出に残っているところ…香港、マカオかな。自分で行ったこともあるんですけれど、ロビュションさんの出張で色々な土地に行かせてもらっていた時に、ロビュションさんの世話係として行きました。あそこでは本当のお金の使い方、というか…

カジノ?
渥美:いや、俺はちょこんとくっついて行ったんですが、お金のある接待というものに、すごく感動しました。感動、というよりも「こんな世界もあるんだなあ」という感じでした。

どんな世界?
渥美:映画みたい。空港に着いたらリムジンがわーっと出迎えていて、一人に一台、俺にまで一台ですよ。ホテルに着いたら、荷物も持たせてもらえず…というよりも飛行機を降りた瞬間に荷物はない。全てがオーガナイズされていました。俺ですら歩かないんですよ。車にばーんと乗って、いろいろな場所に連れて行かれて、荷物も持ってもらえて…俺は気まずかったですけれども、いい勉強にはなりました。なかなか見れない世界だと思うし。

そういう世界を見て、自分もこんな有名シェフになれたら、と思いませんでしたか?
渥美:もちろんそれは、そうですよ。

成功って何でしょう?
渥美:自分が楽しいのが一番です。

いいですね、自分が楽しいのが一番。すると名声というのはあまり?
渥美:いや、欲しいです、もちろん。でも名声というよりも評価はちゃんとされたいです。お客さんが入っていることですでに評価はされているとは思いますけれど、評価は大事だと思います。

お客さんが来て、お店が繁盛している、ということですよね。
渥美:みんなに人気がある、というのが俺にとっては今一番大事ですかね。

さっきご飯をいただきながら、フランスの方だけではなくて英語を話すお客さんも多いように思いましたが、繁盛ということの一番はやっぱり地元に根ざすということですよね?
渥美:もちろんです。フランス人のお客さんが来ないと、はじめはいいかもしれないけれど長続きはしない。しかもこのあたりは、昼は閑散としている。

確かにお昼でメインが30ユーロ近いと…
渥美:そうなんです。逆に、昼は他所で働いて、夜この辺に帰ってくる人たちが食べに来てくれる。この辺で昼間働いている人が食べに来てくれる店ではない、とは思っています。

あとは評価というと何になるんでしょう?地元に愛され、フランス人に愛され…
渥美:ミシュランもそうだし、Le Foodingル・フーディングもそうだし… 評価を目指して仕事はしていないけれど、話題になったり載ったら嬉しいです。いらねえよ、ということにはならないです。

流行りは気にしていらっしゃいますか?そもそも食には流行があると思いますか?
渥美:流行は割に気にしています。今の時代は、クラシックと言っても出せる料理と出せない料理があるとも思っています。例えばブルギニョン(Bœuf bourguignon、牛肉を長時間煮込む料理)は料理としてはいいとは思いますけれど、この店で出すのはどうだろう、ちょっと違うんじゃないかなと。もう少し別な形で出すのならば出来るかもしれません。

ポトフは?
渥美:いやー、全然響かないと思います。それなりの店で出すことはいいと思いますが、うちがやっても意味がない。俺は作れますけれど、美味しく作れる店が作るべきだと思います。

ここへ来るお客さんは、クラシックなものを求めていますか?
渥美:半分はそうでしょうね。前の店から知っている人たち、おじいちゃんおばあちゃんたちはクラシックを食べに来て、骨髄(l’Os à moelleオス・ア・モワル)が食べたいと言ってくれたりします。ですので、Cervelle(子羊の脳)なども普通に使いますし、臓物も頻繁に使っています。

これまでにお会いしたシェフの中には、フランス料理を作りながら自分が日本人だということをあらためて認識した方もいるのですが、渥美さんはどうですか?
渥美:難しいですね。ただ俺が日本人だから、フランス料理を作る上で劣るとは思ったことはないです。

劣るというのではなくて、フランス料理ばかりにこだわる必要はないかもしれない、という考えにつながるかもしれない。
渥美:そういうことなら。でも俺はどちらかというとフランス料理を作りたい派だと思うので、あまり日本のこと、料理との関係も考えはしないです。

日本の食材も使わない?
渥美:使いますよ、時には。甘酒酢はよく使っています。豊さんがよく使っていて、教えてもらいました。ああいう柔らかい、まろみのあるものはあまりなくて、ワインビネガー系はとんがっているじゃないですか。高いですが、好きでたまに使います。

休日に食べる料理はどのようなものを?
渥美:休日ですか?和食です。ほとんど、和食。

それはご自分で作る?
渥美:嫁さんが作ってくれます。じゃなければ洋食です。いわゆるカレーライス、とかオムライスとかハンバーグ。家で食べる時にです。

食べ歩きは?
渥美:しますよ、やっぱり。ガストロノミーの店にはほとんど行かないですけれど、よく知っているカジュアルな店に行きます。たまに記念日などにはガストロノミーの店に行きます。佐藤さんのお店Passage 53に行ってみようよ、とか。でも頻繁には無理ですね、お金が続かない。

渥美さんはそろそろ独り立ちだろう、とおっしゃるシェフにも会いましたけれど、あと10年はここで?
渥美:ここには10年もいないと思いますが、まだこの次のことは全然考えていないです。一度自分の店を、と思ったことがありました。お金を借りるとかスポンサーを見つけるしかなくて日本人の方と一緒に店、場所なども探しましたが、やはり彼らにもパリに対する思い入れがあって彼らが好きな場所や店、彼らが好きなワインなどが出てくる。それが全く俺とは合わなくて、結局実現しませんでした。その時に自分に引け目があったら実現はしないだろう、と感じました。

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対等じゃなきゃ無理だ、ということですね。
渥美:向こうがこちらのことも尊敬してくれるぐらいにならないと難しいと思いました。

いいパートナーを見つけるのは大変なこと?
渥美:大変です。それで揉めている人も多いと思います。

でもパートナーやパトロンがいることがかえって枷になって、自由ではなくなってしまうかもしれない?
渥美:何れにしても自分の店を持つことが大変なことだということでしょう。

ところで、大切な質問をさせていただきたいのです。
お料理というのは、渥美さんにとって何ですか?
渥美:何ですかね…料理は… 仕事です。でも、趣味でもあります、最近は。

10年後も料理をされていると思いますか?
渥美:やっています。やっていたいですね。

料理人になっていなかったら、何をしていた?
渥美:わからないです。スノーボーダーにはなりたかったですけれど…
はじめは専門学校へ行っていても、「料理人にはなりたくないな」と思っていたし。

いつぐらいから料理人になりたい、と?
渥美:トロワグロで働いてからです。

フランスにも来たくないと思っていました?
渥美:いやフランス校へ行けると言われたので 、すぐに日本のフランス料理店に就職するよりはフランスに行ってみてどうするか考えよう、と思ってこちらに来ました。そうしたら、もう楽しくて仕方なかったです。料理もだし、フランスもそうだし。

何か自分の中でパチンと弾けたのが、トロワグロの店でだった?
渥美:そうですね。あそこは本当にいい店です。家族、ファミリーが強くて、あんなにいい店はない。僕は今でも大好きです。たまに会えると嬉しいですね。 ミッシェルさんはここへ食べに来てもくれますし、僕のことを覚えてくれています。もちろん大きな店でとても厳しかったですけれど。

最後の質問になりますが、フランスに来て一番感動した食べ物は?
渥美:ステラマリスのTête de veauテット・ド・ヴォー(子牛の頭)、これは美味いです。

吉野さんが作ってくださった?それは客として食べたのではなくて?
渥美:いや、客として食べました。働く前に、とりあえず一度ご飯を食べよう、と。その時に出してくれたのがテット・ド・ヴォーでした。うまかったです。

なぜ感動したんでしょう?
渥美:普通の食べ方じゃないんです。煮込みですが、Sauce tortueウミガメソースと食べる。エスコフィエよりも前の料理で、ヨーロッパではウミガメを食べていたらしくそのためのソースなんです。俺の勝手な解釈ですけれど、今ではウミガメは食べられないですがスッポンがあるじゃないですか。スッポンとテット・ド・ヴォーって食感も肉質も似ているし、ちょっと臭いがあるところも似ている。それをイメージして昔のレシピを吉野さんが見て、ウミガメと書かれているのでスッポンみたいなんだろう、と想像した。あとはフランス料理だったらテット・ド・ヴォーでいいじゃん、という話だと思います。それがバッチリ成功している料理です。オリジナルでもあるし、クラシックでもある。自分的にはかなり好きな料理です。

そのレシピは?
渥美:吉野シェフがどこかから探してきたんでしょうね。今探しても見つからないような料理です。ロビュションさんが吉野シェフを褒め称えたんです。「あれはうまい」と。

そういえばレシピなど、どうやって記憶されているんですか?頭で?それとも作業の中で動作などから?
渥美:ある程度は書きますけれど、基本的にはあまり書き残さないです。今のところ、だいたい覚えています。

ある日パーっと消えてしまったらどうするんでしょう?
渥美:やばいです。仕事にならないです。それは本当にやばいです。
そろそろ覚えられなくなってきているな、とは思っていますが…(笑)

楽しいお話をありがとうございました。


CLOWN BAR

Adresse : 114 rue Amelot 75011 Paris ,
TEL : 01.4355.8735
URL : www.clown-bar-paris.fr
月火休み

 

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