3年前、パリのメゾン・ルージュでの個展が大評判だったスイス人アーティスト、ルイ・ステール(1871-1942)。その人生は小説になりそうなほど面白い。教養ある中流家庭に生まれ、音楽、建築、美術を学んだ。アメリカ人留学生と結婚し、渡米。新設の大学で美術を教え、画家としても順調だったが、妻との不仲から人生の歯車が狂い出した。
帰国後、音楽で生活したが、浪費癖ゆえ破産、52歳で家族に養老院に入れられる。すべてを失ったかのように見えたこのときから素描家としての第二の人生が始まる。過去のアカデミックな作風から離れ、独自の世界を創り出していった。いとこのル・コルビュジエが、お金のないステールに良質の画材を提供し、養老院での制作活動を支えた。
作風の奔放さからアールブリュットと思われることがあるが、正統な美術教育を受けたステールはこの範疇には入らない。彼の教養の深さと読書で得た文学的なインスピレーションはヴィクトル・ユゴーへとつながっていく。大作家のユゴーはデッサンでも有名だ。この2人を比べると、意外に共通点があることがわかる。題材としてはスイスの古城、黒く浮き上がる人物、布を被った女。文学的インスピレーションではシェイクスピアなど。ステールはもちろんユゴーの読者でもあった。ステールの研究者のコミッショナー、ジュリー・ボルジョーさんの意表を突く視点で、彼のファンには思いがけないプレゼントのような展覧会になった。(羽)
Maison de Victor Hugo : 6 place des Vosges 4e
8月30日まで。月祭休。
画像:Louis Soutter, « SHAKESPEARE »
[1923-1930] Lausanne, Musée cantonal des Beaux-Arts, acquisition, 1956, inv.426