大杉栄は歴史の教訓
フィリップ・ペルチエさん
リヨン第2大学教授のフィリップ・ペルチエさんは、日本について数多く著作をもつ地理学者だ。日本のアナキズムについても詳しく、大杉の『生の拡充』などをフランス語に翻訳している。
─ どうして大杉に興味をもったのですか?
日本の社会主義や無政府主義の歴史に関する文献に彼の名前がよく出てきたのです。それから段々と興味をもちました。彼はそれまでの幸徳秋水などと違い、モダンで面白い。共産主義との距離のとりかたとか、事実婚の問題など現代にも通じるところがあります。反逆児でありながら知的で、志を貫いている。伊藤野枝との恋愛やフランスへの密航談なども面白い。
─ オススメの著作は?
やっぱり『自叙伝』。左派知識人らの批判は一読の価値がある。というのも、彼らは権力欲にとりつかれていたから。いっぽうの大杉は個人と社会の解放を訴えていた。時代は変わっても、通用するものです。彼のような強い個性をもった人物がいた。それは、つまり日本には集団主義だけでなく、個人という考えもあるという証しです。大杉が虐殺されてから、軍国主義の暗黒の時代がはじまった。彼の社会主義批判は、戦後、中国の毛沢東、北朝鮮のキム一族による独裁などで現実のものとなった。大杉はいわば歴史の教訓のような存在かもしれません。