パリに すきな事あり
女の世話のないのと
牢屋の酒とたばこ
闘え。闘いは生の花である。
みのり多き生の花である。
(「むだ花」 大杉 栄)
アナキスト、大杉栄(1885-1923年)。今でも読みつがれている彼の文章は天衣無縫の楽天主義と自由を求める精神に貫かれている。そして、みずからの思想に矛盾することなく、彼の生きざま自体も奔放だった。
叩き上げの軍人の子として生まれながら、不良ぶりがたたって陸軍幼年学校を放校される。外交官を志して外国語学校に入るが、堺利彦や幸徳秋水の平民社と出会い、活動家として破天荒な道を歩み始める。以来、著作の発禁や投獄はもちろんのこと、関係のあった女性も数知れない。最期は関東大震災の混乱の中で憲兵らに虐殺されて短い命を終えた。
死の直前、1923年の2月から6月にかけて彼はフランスにいた。「美は乱調にあり」と喝破(かっぱ)した男は、官憲の目を盗み、中国人の偽名を使った密航という形で滞在しながらも、天性の語学力を駆使して同志と語らい、美食に舌鼓を打ち、ハンサムぶりを武器に夜の蝶と戯れ〈狂乱の時代〉のパリで享楽の限りをつくした。
彼が去ってから91年目の初夏のパリ。希代の自由人の足跡を追いつつ、駆け抜けてみることにしよう。(浩)
取材・構成・文 戸塚浩