しょっぱい音符 4月15日号

HK & Saltimbanks
HK & Saltimbanks “Rallumeurs d’étoiles”  (4月20日リリース)

「フクシマ・モナムール」と歌うシュティの国のプロテストシンガー。
 HK(アシュカ)は本名をカドゥール・ハダディと言い、1976年フランス北部ルーベ(ノール県)生れのフランス人音楽アーチストである。アルジェリア移民の子で、シュティの国の郊外あんちゃんだったカドゥールは、ラップ/ヒップホップで名を成していくが、実はふたつのルーツをしっかり伝承している。20世紀アルジェのカスバで生まれた大衆歌謡シャアビと、北フランス炭坑地帯の社会主義(ジャン・ジョレス)である。シュティのラップバンドMAP(ミニステール・デ・ザフェール・ポピュレール)を経て、2010年にアコーディオンやウードなどを入れてシャアビ化したバンド、HK & レ・サルタンバンクで独立、そのはっきりした闘士性(反資本主義、反レイシズム)のメッセージをお祭り騒ぎ的なビートに載せて、というスタイルで人気を集めた。とりわけファーストアルバムの中の曲「あきらめないぞ (On lâche rien)」は、経済危機で次々に工場閉鎖されていった時期の労働運動とデモに欠かせないぴょんぴょん跳ねの抵抗歌として大衆化した。この歌は2013年のカンヌ映画祭パルム・ドール受賞の 『アデル、ブルーは熱い色』(A・ケシシュ監督)の中で、主人公アデルがリセのデモ行進で絶叫して歌う歌としてさらにポピュラリティーを得た。ユーチューブ上ではアマ投稿で日本語歌詞で歌うビデオが数種ある。
 またHKがブレル、アズナヴール、ヴィアンなどのシャンソンをシャアビ編曲でカヴァーしたアルバム『レ・デゼルトゥール』(2013年)は、日本の音楽誌ミュージック・マガジンの2014年の年間ベストアルバム(ワールドミュージック部門)の第2位にランクされた。

社会派バンド最前線のプロテストシンガー。

 年の大半ツアーに出ていてコンサートだけでなく集会やデモにも登場して歌う行動性、郊外あんちゃん風な親しみやすいキャラクター、ダイレクトで明解な歌詞、ステファヌ・エッセル (1917-2013。フランスの外交官。世界人権宣言の起草者のひとり。2010年発表の大ベストセラー小冊子『憤激せよ!(Indignez-vous!) 』の著者)との親交にも見られる折目正しい抵抗精神、これがHKの魅力である。社会派バンドとして90年代から活躍しているトゥールーズのゼブダの弟分とも称される最前線のプロテストシンガーである。
 HKの新しいアルバムは4月20日発売になり、そのタイトルは ”Rallumeurs d’étoiles”(星々に再び灯りを点す男たち)というポジティヴなもの。非暴力の抵抗運動を歌う「憎悪も武器も暴力もなく」、 カフェにジュークボックスがあった時代の陽気なスウィングを回顧する「ミスター・ジューク」、人々がもっとメルシーと言えば世の中よくなると説く「メルシー」など多彩な内容の15曲。その最終曲が福島第一原発の悲劇を歌う「フクシマ・モナムール」である。そのリフレインはこう歌う。

「フクシマ・モナムール、おまえの毒が俺の血管に流れている / フクシマ・モナムール、おまえは溶解し、俺は血を流す / 人間たちが俺たちに死を宣告しても、恋人よ、おまえのせいじゃない / 神が俺たちを放棄しても、恋人よ、おまえのせいじゃない。」

この歌は生まれた町を必死に愛しているひとりの男の物語なんだ。

 この歌は実は私も少し関係していて、昨年暮れにHKから「こんな歌を書いたんだけど、リフレインを日本語で歌いたい、日本人歌手とデュエットで歌いたい」という要望が来たのだが、私は非力で何もしてやれなかった。ごめんなさい。で、最終的に日本語なしでこの歌は録音されたが、出来はとても胸を打つ。HKは本紙用に 「フクシマ・モナムール」を説明するこんなメッセージを送ってきた。

  「この歌は生まれた町を必死に愛しているひとりの男の物語なんだ。その土地は彼の祖先が何代もかけて耕して愛情をかけてきたもので、その土地が彼を育てた。今やその土地は放射能を浴び、野菜果物は汚染されている。その土地は人間の狂気の犠牲になり、人々はその土地から逃げていった。だけど彼はそれができない。あまりにもその土地を愛しているから。これは理性では説明のつかない狂気の愛だ。だから、この土地が人間たちから死の宣告を受け、神からも見放されて、荒れるがままにしておくのではなく、彼はそこに留まり、その土地を腕の中に抱きしめて、その土地と共に死ぬことを選んだ。この歌は僕たちと地球の関係だけでなく、僕たちの無分別も問いただすものなんだ。僕たちが持っている能力、人間であるということが、時として危険な火遊びに手を出してしまい、自信と自惚れが過ぎて、自然よりも人間の方が強いと思って過ちを冒すということをね。」

 また、日本に一度も行ったことがないのに、日本で少なからず話題になっていることにも、
  「日本に住んでいるフランス人の友人たちが僕たちの歌 “On lâche rien” (あきらめないぞ)の複数の動画リンクを僕に教えてくれた時の驚きと歓び。誰かが日本語字幕をつけてくれたある動画はビュー5万回に達しているし、他の動画では日本のバンドがこの歌を日本語で歌っているのもあるし、デモ行進で歌っているのもある…。音楽において素晴らしいのは、ひとたびそれを作って、歌って、録音したら、僕たちがわざわざ旅行する必要なんてないってこと。だから僕たちの歌が日本にまで旅して行ったということで僕はとても幸福だし、誇りにも思っている。偉大なシャンソンのスタンダードを僕のソースで味付けしたアルバム『レ・デゼルトゥール』の日本での好評もね。」
 そこで今の唯一の望みは日本にとても行きたいこととメッセージは続くのだが、遠からず実現して欲しいものである。それまで、この闘士肌のシンガーが歌う「福島の愛」、もう一回日本の聞き手に届いてほしい。

文:向風三郎

HK & LES SALTIMBANKS パリ公演
5月30日。
Le Trianon : 80 bd de Rochechouart 18e
www.letrianon.fr   01 4492 780

© Benoit Poix

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