Caprice:Emmanuel Mouret
小学校の先生をするクレマン(監督エマニュエル・ムーレの自作自演)は演劇が大好きで、特に女優アリシア(ヴィルジニー・エフラ)の大ファンで彼女の舞台は欠かしたことがない。ある日、あろうことか憧れのアリシアが小学校に現れ、クレマンは彼女の甥の家庭教師を引き受けることになる。そしてもっとあろうことか、アリシアはクレマンに好意を抱く。まさかまさかと思ううちに、スター女優と一介の小学校教員は恋仲になり同居するようになる。夢物語である。もちろん夢物語は長続きしない。アリシアの舞台を観に行った日にクレマンの隣に座った女優の卵のカプリス(アナイス・ドゥムティエ)がクレマンに片思い、猛攻をかける。人の善いクレマンは彼女を無下にできずずるずると彼女のペースに巻き込まれてしまう。一方、クレマンの勤める小学校の校長で、クレマンの親友にして相談相手のトマ(ローラン・ストーケル)とアリシアも、あろうことか親密な関係に…。二重の三角関係。一人一人が、一番打ち明けたい相手に対して秘密をもって、この局面をどう乗り切るのだろうか?
『Caprice』(火付け役の登場人物の名前であると同時に「気まぐれ、浮気心」といった意味)の監督、エマニュエル・ムーレは、よくウディ・アレンと比較される。自作自演が多く、彼が演じる人物は、概して不器用で奥手、その割には大胆になる瞬間があったりして、そんなところが意外に女性にもてる。そして自分のとった態度を分析し独白する。『Caprice』も自己紹介的なナレーションから始まる。監督は映画学校 FEMIS の卒業制作で注目を浴び、これが9本目の劇場公開作。彼の作品のファンも一部にいるようだが、今までは自己中心的な甘えが鼻につき筆者は退き気味だった。しかし今回は「僕にとって映画は後にも先にも映画で、現実を捉えたリアリズムである必要はない。映画は悦びであって欲しい。観客には作品の世界に同化して愉しんでもらいたい」と語る監督の意図が成功しているように思う。監督として熟練してきたとも言える。クレマンの夢物語を共有できた。春っぽいご機嫌の1本です。(吉)