
あえて名前はださないが、多くの人が使う某SNS(ソーシャルネットワーク)の当て字を考えてみた。「顔帳」、「面帳」、どれもしっくりいかない。だがフランスには「しっくり」ではなく「納得」いかないと声を上げた人がいる。2年前、自分のページに教育目的で載せた19世紀の画家クールベの「世界の起源」の写真が青少年に悪影響だからと削除された男性教師である。彼は表現の自由の著しい侵害としてSNSを訴えた。
だが世界的企業を相手にしたドンキホーテ的な法廷闘争は、米仏間の裁判権をめぐる問題で出鼻をくじかれる。
世界中に利用者がいるのに、本社があるカリフォルニア州の裁判所にしか訴えられないのは異常だ。パリ大審裁判所は2月5日、フランスでの裁判を妥当と判断した。
「世界の起源」は、女性器を描いた写実性きわまる名画だが、もともとトルコの外交官の特注品として描かれた。20世紀に所有者が何度か代わったが、モチーフと同様に人目にふれぬ〈秘画〉として保管されつづけた。
しかし最後の個人所有者だったジャック・ラカンの遺族によって相続税の代わりに物納され、オルセー美術館に展示されるようになると、一躍世の脚光を浴びた。
パリ・コミューンに加わるほどの反骨の画家クールべ。絵が醸し出すその精神に触発され、新たな挑発を試みる者もいる。昨年の5月には「起源の鏡像」と称して、ルクセンブルクの女流芸術家が絵の前で股を開き実物を見せて警察沙汰になった。彼女を取り締まった当局が、今度はこの絵の掲載を拒んだ米国の企業に対して異議申し立てする。皮肉な世の中だ。ハンケツはまだだが、あのSNSの当て字は「御開帳」に決定だろう。(浩)
