先日、テレビでコルシカ島のうまいものがテーマになっているドキュメンタリーが放映されていた。青空の下、標高1400メートルの草原で黒豚の群れが、木の根っこや、香り高い灌木を食べたり、澄んだ池の水を飲んだりしている。「10月くらいから囲いに入れて、ドングリやクリの実だけを与えて、その味に磨きをかけるんです」と黒豚のオーナーが語っていた。ほとんどがコッパやソーシソン、生ハムに加工されるとのことだった。そう言いながらも、みごとに脂がのった豚肉で、ご自慢の、コルシカ風豚肉の赤ワイン煮を披露してくれた。
彼は、豚の脇腹肉traversとロースcôtes de filetを使っていたが、ボクらは、適度に脂が混じり混んでいる背ロースéchineを使うことにしよう。肉屋で1キロ分を塊で切り分けてもらい、骨をとってくれるように頼もう。ついでに、脂身が多めのベーコンも買い求める。
まず赤ワインに濃縮トマト、タイム、ローリエを加え、30分ほど置いてハーブの香りを移すことにしたい。
肩ロースは大きめの角切りに、ベーコンは小さく切り分ける。玉ネギはみじん切り、ニンジンは厚めの輪切りにする。ココット鍋にオリーブ油をとり、塩、コショウした肉を、色がつくまで炒めてとり出す。ココット鍋は洗わず、そこに玉ネギとベーコンを加えてしばらく炒めたら、肉を戻し、ニンジンと押しつぶしたニンニクを加え、赤ワインをタイム、ローリエごと注ぐ。そして肉とひたひたになるまで水を足す。再沸騰してきたら、ふたをして、弱火で2時間煮込んでいく。
2時間経ったら、瓶詰めなどで市販されているクリの実(コルシカ島の名産の一つ)と、皮をむいたジャガイモを加える。さらに30分ほど煮込んで、ジャガイモがすっかり柔らかくなったら、でき上がりだ。
ドキュメンタリーの中では、みんなロゼを飲んでいたが、ボクはコット・ド・ヴァントゥーの赤を選んだ。(真)
4人分:豚の肩ロース1kg、ベーコン150g、大きめの玉ネギ1個、太めのニンジン3本、クリ150g、ニンニク2片、ジャガイモ500グラム、濃縮トマト大さじ1杯、赤ワイン500cc、タイム5枝、ローリエの葉1枚、オリーブ油、塩、コショウ
●コルシカ島の名産
コルシカ島でおいしいもの、といったらまず豚肉製品だ。もも肉を使った生ハム、ロースの生ハムlonzo、脂身が混じり込んでいる肩ロースから作られるおなじみのコッパcoppa、各種ソーシソン。薄く切って、食前酒のおつまみやアントレに。豚肉のレバーが入った腸詰めフィガテッリfigatelli(figatellu)も名高いが、パリで見つけるのはなかなか大変だ。
クリの実châtaigneも、今回のレシピのごとくコルシカ料理にはよく使われる。クリの粉farine de châtaigneを利用するのもコルシカならではだ。グルテンなしで、プロテインや繊維質が豊富、ビタミンBやEも含まれている。この粉でパンを焼いたり、カトル・カールのようなケーキを作ったり、水や牛乳を加えてポリッジにしたりする。
コルシカは山が海まで迫っていて、牧草地があまりないので、牛よりもヤギや羊の方がよく飼われているから、チーズもヤギ乳や羊乳で作られたものが名高い。ブロッチュはヤギ乳や羊乳でから作られるフレッシュチーズで、砂糖とマール酒をかけて味わえば、そのまま素敵なデザートに。タルトに使ってもうまい。長い間熟成させた羊乳のトムは、バスク産のトム同様、かめばかむほどうま味が口の中に広がる。コルシカで、深いつぼに入っている「住まわれているチーズ」というのを食べたことがある。ねっとりとした、古漬けのような味のチーズだったが、あとで友人が「よく食べることができたなあ。ウジ虫がうじゃうじゃいたよ」。ちっとも気づかなかったのは、虫の味もチーズ味だったからだろう。
●豚の肩ロース échine
肩ロースは、ロースと違って、脂身が混じり込んでいるから、ローストしても、ソテーしてもしっとりとした味わいになる。角切りにして玉ネギと交互に差して串焼きもおすすめだ。ポテという煮込み料理に向いているし、挽き肉にもここが一番適している。