「ヘリ!」「ヘリ!」と呼ばれて校門を開けに来る30歳くらいの女性が主人公。高校の生徒監督の仕事をしているらしい。帰宅しても「ヘリ!」「ヘリ!」と彼女を呼ぶ声。待っていたのは脳障害をもつ妹のギャビーだ。二人はとても仲が良い。妹は姉を慕い姉は妹を偏愛している。二人の関係に変化が起きたのは、ギャビーが養護施設に通うようになってからだ。意外やギャビーは施設に馴染んで友だちもできる。先生のことも気に入っているようだ。ヘリは心の奥で「妹にとって自分が絶対必要な存在ではなかったのか」と思う。落胆にも似た疑問だ。(その腹いせに?)ヘリは新任の体育教師ゾハールに接近し、この母親と二人暮らしの冴えない中年男を略奪結婚よろしく家に連れ込み同居生活を始める。これまた意外なことに、ゾハールはとても良い奴で、ギャビーの面倒も積極的にみ、姉妹の健全な関係作りに一役買い、三人の調和のとれた生活が営まれるようになるのだが、またしても意外なことが発覚し、ヘリの猜疑心は沸点に達する……。
愛情と嫉妬心、信頼と裏切り、といった感情が複雑に入り交じった末にヘリが犯したのは決定的な過ち。人間の心一つがドラマを紡ぐ。
フランスでは『Chelli』という主人公の名前がタイトルとなっているイスラエル映画だ。シェリと発音するところだが私の耳には「ヘリ」と聞こえた。アサフ・コルマン監督の処女長編。脚本のリロン・ベン=シュルシュはヘリ役で主演も務め、実生活では監督の妻だ。昨年のカンヌ映画祭・監督週間出品後、11月の東京フィルメックス映画祭で審査員特別賞を受賞。小品ながら佳作。(吉)