数カ月前から話題の展覧会である。何度見ても新しい発見がある。歴史的、社会学的、そして美的観点から入れ墨を捉え、入れ墨へのイメージと先入観を一変させる、力のこもった展覧会だ。
入れ墨は古代から世界各地で施されてきた。その目的は、人を神聖化したり、罰として印をつけたり、集団への帰属を示すものだったり、治療のためだったりした。ところが、特にヨーロッパでは、犯罪者、売春婦など、社会から危険分子とみられる人たちに施し、彼らを特定集団として差別する道具として使われ、入れ墨のイメージはネガティブなものになった。植民地時代、ヨーロッパ人は太平洋の島の人々との接触で入れ墨を再発見したが、自分たちの価値観を基に住民に禁じたため、入れ墨文化は次第にすたれていった。
幅広く使用された古代から、狭いイメージに落とされた暗黒時代を経て、再び入れ墨が市民権を得て、世界的な流行現象となった現代までを、ビデオ、写真、オブジェなどの豊富な資料で見せている。
メジャーなものになっていくきっかけは、アメリカの見せ物小屋の入れ墨芸人たちのスター化、イギリスの王族、貴族が入れ墨を施し始めたこと、電気彫り技術の開発だった。
今では、集団への帰属ではなく、自分の美意識やアイデンティティのために入れる人が多い。社会から強いられた体から、自分で選びとる体へと、人々の意識が変化したのが感じられる。日本の部には、尊敬する彫り師の作品を身にまといたいと、全身に彫り物をした若い女性のビデオがある。この展覧会で一番インパクトの強い作品である。
入れ墨は体を素材にしたアートになった。会場では、入れ墨師たちが美術館の注文でシリコン肌に彫った新作を展示し、入れ墨の芸術性を存分に見せている。写真は、アメリカで活躍するフィリピン出身の入れ墨師、レド・ズルエタが、太平洋の伝統的なモチーフを基に制作したもの。
会期半ばの2月、ケ・ブランリーではこの展覧会関連のイベントが多い。2月12日 (木) 、13日(金)は研究者たちによる入れ墨についての国際会議が、2月20日(金) 19 – 23時には、シリコン肌への入れ墨の実演、芝居など、入れ墨に関する特別イベントがある。どちらも入場無料。 20日の詳細はFacebookのLes BEFORE du quai Branly で。 (羽)
Musée du Quai Branly : 37 quai Branly 7e
10月18日迄(月休)。
画像:Tatouage créé sur moulage en silicone de corps humains pour le musée du quai Branly, dans le cadre de l’exposition Tatoueurs, tatoués.
Leo Zulueta 2013 Silicone États-Unis
© Musée du quai Branly, photo Thomas Duval