4月にオープンしたパリ動物公園のコンセプトを作った建築家ベルナール・チュミ(1944-)の建築理論とプロジェクトを紹介する回顧展。
彼の思考は建築にとどまらず、美術はもちろん、演劇、音楽、ダンス、映画、文学、哲学、社会学と幅広く他分野にリンクしており、これらの分野で仕事をしている人にとって啓発される点が多い。普段使わない頭の部分がフルに回転させられる、刺激的な展覧会である。
スイスで生まれ、ニューヨークとパリで活動するチュミは、1970年代から実験的な活動を行ってきた。「建築とは、ボリュームが光の下で正確に巧みにすばらしく機能すること」というル・コルビュジエの言葉に疑問を抱き、人間の動きと、そこで起きる出来事なくして建築はありえないと考えた。ニューヨークのセントラルパークで起きる事件とそれに関わる人たち、建築を一つの物語にしたManhattan Transcriptsは、その思考の表れだ。
人の流れや動きを建築の一部と考えた彼が、映画に大きな関心を持ったのは当然の成り行きだった。映画の中の移り変わる動きを建築化するというアイデアは、一見突拍子もないが、優れて創造的なもので、建物という固体に動きを与えている。違う分野を建築化するという意味では、彼が教鞭を取っていた英国建築協会付属建築専門大学の学生に、ジェイムズ・ジョイスの小説「フィネガンズ・ウェイク」を基にして庭をデザインさせるという前衛的な試みも行った。
チュミは形から入るのではなく「初めにコンセプトありき」で、理論家とされている。パリのラ・ヴィレット公園は、1982年にコンペで勝って、初めて手掛けた大がかりな公的プロジェクトで、その理論が表れている。彼の考えでは「人の動きが一緒になって場所を作り上げていく」はずだったが、その後の公園を見ると、人がまばらで、広大な敷地を十分使いきれていない気がする。「理論倒れ」と批判されることもあるらしい。
80年代終りには、ファサードと屋根の区別をなくし、一つの「エンヴェロープ」で覆うというコンセプトを実行した。ルーアンの多目的ホールはその一つ。このホールや、地形的なコンテクストを活かしたアテネのアクロポリス美術館は、行ってみたいと思わせる魅力的なものだ。(羽)
ポンピドゥ・センター:7月28日迄(火休)