5月24日、ブリュッセルのユダヤ博物館でフランス人イスラム過激派メディ・ヌムーシュ容疑者(29)が小銃を発砲し4人(イスラエル人夫婦他2人)を殺害した。この事件が呼び起こすのは、2012年3 月11 日から19日にかけてスクーターを利用しモントーバンで警官3人、トゥルーズのユダヤ人学校で女子生徒3人と教師1人、計7人を射殺したモハメッド・ミュラ(23)による射殺事件だ。
この2つの事件の関連性としてミュラもヌムーシュも少年時代から軽犯罪を重ね服役後、前者はエジプトからトルコ、シリアへ。後者は北部ルーベに生まれ生後3 カ月から里親、少年保護施設を点々とし、数回の拘禁中にイスラム過激派思想に染まり、出所後シリアのジハード武装集団に加わった後、マレーシア、タイを経て、フランクフルトに帰還しブリュッセル事件に及ぶ。
若年層の失業率が30%に及ぶ地域のイスラム系青少年の行き着く先はドラッグかジハードと言われている。フランス社会で行き場のない彼らは、「シリア内戦は、1940 年代欧米の知識人らがフランコ独裁に対して闘ったのと同じ戦い」と喧伝するソーシャルメディアやツイッターに感化され、聖戦に目覚め使命感を抱く。シリア内戦に加わった約70 カ国からの外国人約1万人のうち西洋人2000人(英国人500人、ベルギー人200人)、フランス人800人のうち約300人が現在もシリアに在住、女性は15%と見られ、20人余が死去。6月9日、グルノーブルでジハード志願者を募っていたチュニジア人(28)が逮捕され国外追放された。現地で戦闘訓練を受けた若者らが帰国後、一匹狼(おおかみ)または集団テロを起こすことへの警戒態勢をEU諸国が強める。
シリア内戦と共に問題視されているのは、シリアからイラクまで行動範囲を広げるスンニ派過激武装集団「イラク・レバントのイスラム国 ISIL/仏EIIL」勢力。「レバント」とはイラク、シリア、レバノンを含み、元アルカイダにいた指導者アル・バグダディ(41)を頂点にカリフ国家の建設を目指す。今年1 月イラク中部のファルージャを占拠し最大規模の石油精製施設も掌握。6月10日、バグダッドから150km北、主要都市モスルを制圧し基地から武器を強奪、銀行も襲う。ISILジハード勢力は2011年米軍撤収後、シーア派中心のマリキ政権に反発するサダム・フセイン時代のスンニ派元官僚・兵士、住民も巻き込みイラク北部に勢力を広げる。
ISILの急激な勢いを警戒するのはシーア派イスラム国イラン。かつてのイラン・イラク戦争の敵同士が共通の敵ISILに対して共同作戦に出るか。マリキ首相はオバマ大統領にも援軍を依頼。35年前イランにとっての「白い悪魔」アメリカが、ISILの定着を阻止するためイランと共に戦うべきか 、オバマ大統領は頭を抱える。隣のスンニ派大国サウジアラビアが目を光らせる。
イスラム過激派若年層は中東がカオス化すればするほどアルカイダより戦闘力のある「イラク・レバントのイスラム国」の戦士を志し、中東の地政を変えつつあるジハード聖戦を西洋にまで拡大させる野望を持たないか。(君)