現代作家にグランパレの広大なスペースを自由に使ってもらう趣向の「モニュメンタ」。今年は、アメリカ在住のロシア人アーティスト、イリヤ&エミリア・カバコフ夫妻だ。ここ数年のモニュメンタの中でも出色の展覧会である。
イリヤ・カバコフ(1933-)は、旧ソ連で絵本画家として知られ、その後インスタレーションを始めた。87年に出会ったエミリア(1945-)は、2年後に共同制作者になった。
「不思議な都市」と名付けられたインスタレーションは5つの建物と2つのチャペル、1つのクーポールで構成されている。クーポールは時間に応じで色が変わる。この前でコンサートが開催されることもある。音楽と美術の融合を目指す試みだ。
5つの建物の中の「空(から)の美術館」には、観客が座るベンチしかなく、壁には絵の代わりに楕円形の赤い光が映し出される。バッハの音楽が流れる宗教的な雰囲気で、絵の中の聖人が光になった教会のようだ。「マナス」は、チベットの伝説の地中都市「シャンバラ」にヒントを得た天空の都市。天を反映して地上にも同じ都市がある。「宇宙のエネルギーの中心」は、工場建設予定地から、紀元前13世紀の古代文明の、宇宙エネルギーを取り込む装置が発掘されたという話。「マナス」同様、カバコフの創作物語だ。「天使と出会うには?」では、高いやぐらを組んで、天使に会いに行こうとする人が表されている。やぐらのぎりぎりの場所で天使と人が手を差しのべ合っている姿が切ない。「扉」では、生と死の境界線を象徴するような扉が真ん中にあり、門が時間の経過とともに色を変える様子を描いた絵がそれを囲んでいる。
「不思議な都市」というコンセプトの中に建物やチャペルのコンセプトがあり、その中にさらにコンセプトがあるという入れ子状になっている。
物語を構築する豊かな想像力を、確かな技術で実現するカバコフは、超一級の総合芸術家だ。現代美術がわからないという人でも理屈なしに入っていける。それは、文化の違いを超えた人類の共通項が作品に反映されているからだ。天と、過去と未来とつながりたい気持ちもそうだろう。現代的でありながら、古い魂を持った作家である。(羽)
グランパレ:6月22日迄(火休)
画像:Monumenta 2014, Ilya et Emilia Kabakov, L’étrange cité