「スラム」はポエムの最前線!
〈Le Moulin à café〉という市民団体が運営するレストランは、14区の地下鉄Pernety駅近くにあるが、毎月第1金曜日、19時を過ぎた頃から、子供から80代の高齢者まで、そして人種や国籍も様々な人たちであふれかえる。お目当ては誰もが参加できるというスラム(ポエトリー・リーディングの一種)のオープンステージ「Amis de la poésie, bonsoir!」だ。ホイッスルを首から下げた男がみんなの前に立つ。2004年から団体〈Universlam〉を主宰し、パリで数々のオープンステージを立ち上げてきたKing Boboさんだ。
スラムとはどういうものなのか。Boboさんは「ルールは単純です。ステージに立って3分以内に自分のテキストを衣装や小道具、音楽などの助けを一切借りずに言い切ること」という。内容も自由。学校で習ったばかりのランボーの詩を朗唱する子供もいれば、『枯れ葉』を歌い出すおじいさんもいる。バーが会場になることが多く、登壇したらドリンクを一杯だけもらえる習慣になっている。
観客の中には小さなホワイトボードを手にした審判たちがいる。彼らは挑戦者の演技が終わるごとに、体操競技の以前の審査員のごとく
10点満点で採点していく。
高得点を集めるのは、やはり韻を踏み、ウィットに富んだリズミカルな言葉だ。上位の入賞者は全国大会に出場し、全仏チャンピオンをめざすというから、どこかスポーツにも似ている。「Pilier(ピリエ、柱)」と呼ばれる玄人のなかには、地下鉄の駅名を始発から終点まで詠み込んだり、落語のように客からお題をもらって即興で詩をつくる強者もいる。
スラムはそもそも、1980年代にアメリカのデトロイトで始まり、フランスにきたのは1990年代。人気が高まるようになったのは、2006年にセーヌ・サンドニ県出身のスラマー「Grand Corps Malade」のCDがヒットしてメジャーになってからで、いまでも彼のCDが出るごとにスラムを始める人が増えるという。
「ボクはもともとヒップホップ育ち」というBoboさん。最近は自分が立ち上げた多くのステージの運営を若い後輩たちにゆずり、スラムの評価を高めようと、スラマーたちの作品の出版に本格的に乗り出している。もちろん自分でステージに立つこともある。
気取ることがなく、それでいてアクロバティックに躍動する言葉。ときに観客のしらけや、嘲笑(ちょうしょう)、そして雑音に直接さらされながらも、与えられた3分間を自分の言葉で戦い抜くスラマーたちの姿には、「前衛」という言葉がよく似合う。
Moulin à café : 8 rue Sainte-Léonie 14e 01.4044.8755
www.moulin-cafe.net/
Universlamのサイト : www.universlam.com/
写真のスラマーは、スカロという名のブルガリア人。