2022年カンヌ映画祭の開幕作品は、上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』のリメイク作品『Coupez!(カット!)』が選ばれました。監督はアカデミー賞の作品賞に輝いた『アーティスト』で知られるミシェル・アザナヴィシウス監督。これまでカンヌの開幕作品は、いわゆる「にぎやかし」的な派手め作品を選ぶ傾向があり(昨年の『アネット』は開幕作品でありながら、質も高いためコンペ作品でもある稀有な例)、内心、本作にはそれほど期待していませんでした。
しかし、「映画を作る映画のリメイク」という入れ子構造が楽しいフランス版は、オリジナルの面白さを細部まで忠実に引き継ぎながら、有名俳優を起用し世界に大きく届けるというミッションはしっかり果たした佳作でした。作品の基本的アイデアはオリジナル頼りでもあり、革新性が大事なコンペ部門に入って賞を競うタイプの作品ではありません。オリジナルファンの人には少々驚きが足りないかもしれませんが、本作で初めて「カメ止め」ワールドに触れる外国の人には満足度が高そうです。
メイン会場リュミエール劇場の観客は、スタンディングオベーションが長く続いたり、音楽に合わせ手拍子が鳴り響いたりと大盛り上がりだったそう。筆者は同じ時間に、お隣のドビュッシー劇場で見ていました。こちらは関係者が不在なため忖度拍手も不要なのですが、やはりジャーナリストたちの反応はすこぶる良く、後半は笑いが湧き起こっていました。
とりわけ劇中で音響効果を担当するジャン=パスカル・カルザディ(写真下)のシーンは大好評。カルザディは出っ歯気味でコミカルな雰囲気の黒人俳優ですが、2020年には自身で主演・監督を務めた政治コメディ『Tout simplement noir』がコロナ期にも関わらず観客動員数76万人超の国民的大ヒットに化け、本人もセザール新人俳優賞も獲得した芸達者な才人。この機会に日本でも知られてほしい存在です。
開幕上映の余韻が冷めやらぬ翌日の5月18日には記者会見。監督や出演者たち、プロデューサーが集いました。このチャレンジャーな企画に対し、すぐ乗り気になってokの返事ををしたのがアザナヴィシウス監督と監督役のロマン・デュリス。かなり迷ってから参加したのが、元女優の女優役のベレニス・ベジョと若い俳優役のフィネガン・オールドフィールドだったそう。でも皆さん、終わってみたら参加をしたことに大変満足そうでした。
また先述の通り、かなり原作に忠実な内容ですが、監督は「権利を買ったということは、良いアイデアも買ったということ」という認識。劇中の監督がアロハシャツを着ているなど、細かいアイデアの数々が積極的に残されている所以です。
そしてオリジナルから続けて仏版でも起用されたのが、プロデューサー役の竹原芳子さん。「完全に驚くべき俳優、信じられないエネルギーを持っています。ジャン=パスカル・カルザディもうそうですが、登場した途端にリアリティを高めてくれます。そしてオリジナル作品へのオマージュの意味もあります」と監督は語っていました。
竹原さんはカンヌ入りし、映画クルーとともにレッドカーペットも歩きました。50歳を過ぎてから俳優を目指したという武原さんの活躍は夢がありますね。(瑞)