1977年、ベルヴィルに住み始めた。中華街の影も形もなく、交差点のところには巨大な空き地が広がっていた。マグレブ系レストランは多かったが、中華レストランは一軒だけ。出てくるものといったら、エビ料理はケチャップの甘味だけが残り、鶏にも、薄味のどろりとしたソースがかかっていた。当時は、手頃な値段で本格的な中国料理を食べさせてくれる店は、パリでは皆無だったと言っていい。バスティーユには、ゆでたスパゲッティを使った焼きそばを出す店があったりした!
そのベルヴィルの空き地にいつの間にか高層アパートが建ち、戦争、内乱続きのカンボジアやベトナムから避難してきた中国人が入居し、1979年のことだったと思うのだが、交差点から遠くないところに最初の本格的な中国レストランが出現! 今でも大繁盛している〈大元〉である。通りからあめ色に焼き上げられて吊るされているカモやチャーシューが見える。さっそく入り込んで頼んだのが、そのカモのロースト。カリッと焼き上げられた皮をかじると肉汁が口の中に広がる。カンボジア風「プノンペン風汁麺」もうまかった。細いビーフンに澄んだあっさり味のスープ、そして豚の挽き肉、薄切りのカマボコや、エビ、香菜がのせてある。新しい味の発見のはじまりである。
それからは北京ダックを売り物にする店、本格的な餃子や点心料理の店などが次々とオープンし、ベルヴィル街はチャイナタウンへと変貌していくことになる。(真)