〈日の昇る場所〉書店。

—母国語で読むということ〈ペルシャ語編〉—

 「ペルシャ語にはアラビア語にない3つの文字や発音がある、たとえばP(ピー)だ」。「〈ペルシャ〉というのはヨーロッパ人がつけたもの、私たち自身は古くからアーリア人の国という意味の〈イラン〉というの国名を使っている」
 ナシオン広場に近い、 Cours de Vincennesにある書店〈Khavaran(ハヴァラン)〉の店主バーマン・アミニさんが熱心に語る。その物腰には、商人というよりも学者の匂いが漂う。店の7割がフランス語の本を扱っているので、一見普通の書店と勘違いしてしまうが、実はこの店、フランスで唯一のペルシャ語書店なのだ。
 イラン北西部のマシャードという町で育ったアミニさん。テヘラン大学で政治学の修士号を取得したが、イスラム革命直後の1980年にフランスにやってきた。「シャー(国王)の側にいたのか?」と聞くと、彼は厳しい顔で首を横にふった。「僕は王政時代に政治犯として4年間刑務所に入れられていたくらいだ」。ではなぜ革命後に国を出たのかと聞くと、「王政にしろイスラム政権にしろ非民主的な独裁体制には反対だから」という。とくに宗教による独裁は、個人の心の中まで縛り付けるから王政や軍事独裁よりも残酷だとのこと。お店のショーウィンドーにルポや歴史書が多く並んでいるのも、どことなく彼の気骨を表しているようだ。
 フランスでも研究を続け、DEA(修士号)を取った後、10年前にこの書店を開業した。客層は近所の住人やパリ在住のイラン人、またはペルシャ語やイラン文化に興味をもつフランス人などが多いという。ペルシャ語の書籍はイランから送られてくるものもあれば、世界各地のイラン人コミュニティーで出版されたものもある。「イランではいつの時代も検閲があるからね」とアミニさん。
 フランス語で読めるペルシャ文学のおすすめは、やはり『ルバイヤート』や『王書』、ハフィーズの恋愛詩といった古典の定型詩だが、1906年の立憲革命から文学の世界でも近代化が進んだ。アミニさんいち押しのニーマという詩人は「イランのランボー」にたとえられている。「新作では現代の女流作家ピルザッドがイランの現状をよく表現していていい」と平積みになった一冊を見せてくれた。
 「そういえば…」と言って探してくれたのはペルシャ語訳村上春樹の短編集。「『海辺のカフカ』もあったけれど、最近売れてしまった」とのこと。お店の名前になっている〈Khavaran〉は、アミニさん自身の故郷でもあるイラン北東からアフガニスタンやタジキスタンまで広がる地方のこと。古くは文化の中心としてハイヤームなどの文人や学者を多く輩出した。ペルシャ語ではどういう意味なのかと聞くと、「日の昇る場所」という意味だと教えてくれた。どことなく「日本」という国名に通じるところがあって、妙に親しみを感じた。(康)
Khavaran:14 Cours de Vincennes 12e
01.4343.7696 
月14h-20h、火〜日10h-20h。
*Norouz :「手頃な値段のイラン料理店」とアミニさん。イランでも米をよく食べるという。昼のコース13.5€-18€。
月火水は昼のみ(ラストオーダー14h30)、 木金土は夜も開店し23hまで(土は昼なし)。 
48 rue du Dessous des Berges 13e  01.4584.2948


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