ワイン街道にある村々を訪れた。
秋も深まり冬の足音が近づく頃、美味しいアルザスワインとの出会いを求め週末の旅に出た。ヴォージュ山脈とライン川の間を南北170kmにわたって伸びる「ワイン街道 Route des vins」は、世界有数のワインの産地。コルマールを起点にすれば、効率よく美しい村々とワイナリーを巡ることができる。
最初は、コルマールの北15kmほどのところにあり、「ブドウ畑の真珠」とうたわれる村、リクヴィルへ。城壁のアーチをくぐれば、可憐(かれん)な木組みの家々が目に飛び込んでくる。戦火を免れた中世の町並みは、童話の世界そのまま。人口1200人の村には約20のワイナリーがひしめき合う。その中のひとつ、老舗〈Dopff & Irion〉を訪れた。まずは年代物のワイン圧搾機や蔵を見学。アルザスで栽培される7種のブドウ品種について知識を深めた後、ようやく試飲タイムだ。濃厚なワインの匂いに包まれながら、グラス片手にカウンターで試飲。至福のひとときだ。昼は「Winstub」と呼ばれるアルザス名物ワイン酒場の一つ〈La Brendelstub〉で、パスタが添えられている、川スズキsandreの白ワイン煮で舌鼓を打つ。
リクヴィルからほど近い村ゼレンベールにある〈Becker〉は、アルザスワインの真髄に触れられるワイナリー。1610年から家族経営を続ける老舗で、最近もタイ王子がお忍びで訪れたらしい。オーガニックワインの生産に力を注ぐ13代目のジャン=フランソワさんの自信作は、辛口のリースリング。口にふくむとキリッとした酸味と芳香が広がる。郷土料理や魚介類を引き立てている白ワインの最高峰だ。
黄金色に染まるブドウ畑を抜け、最後はリボヴィレに到着。この村も花で飾られた木組みの家々がかわいらしく、妖精でも隠れていそう。アルザスではコウノトリの絵をよく見かけるが、この村こそ、幸福を運ぶコウノトリのお里であり、住民は屋根の上の巣を大事にしている。残念ながら渡り鳥なので寒い時期はアフリカ滞在中。次は暖かい時にこようと誓う。この村のお目当てのワイナリーは〈Mets Frères〉。地元民が「良心的な値段で味も最高」と教えてくれた店で、ワインの製造道具も見学できた。
そろそろ旅も終わり。パリ行き列車に乗り込んだら急に現実に引き戻された。まぶたの裏に残る美しい村々の残像…「あれは夢だったのか?」とも思える。でも、スーツケースにはしっかりと、細身の瓶に入ったアルザスワインが。(瑞)
老舗〈Dopff & Irion〉
川スズキsandreの白ワイン煮
辛口のリースリング