パリから少し遠いが、わざわざ行ってみる価値がある展覧会である。城内と庭園で一人の現代作家の作品を展示する、恒例となったヴェルサイユ宮殿の企画。今年の招待作家はイタリアの彫刻家、ジュゼッペ・ペノーネ(1947-)だ。ヴェルサイユの壮麗さに圧倒されず、ヴェルサイユのきらびやかさとはまったく違う個性で存在感を示している。
木材、石、ロープなどの「貧しい素材」を使ったイタリアの芸術運動「アルテ・ポーヴェラ(貧しい芸術)」に加わったペノーネは、今回も枯木、葉、石などを使っている。
城内の作品のうち、入り口近くの『Albero Porta-Cedro 木の門-ヒマラヤスギ』は、木をくりぬいて、その中に細い木を入れたもの。豪華な宮殿から「何しに来たの」と聞かれて、場違いなところにいる自分に戸惑っているように見える。しかし、ミスマッチはこれだけだ。出口付近の2階にある『Respirare d’ombra 影の呼吸』は、控えめにヴェルサイユに合わせたかのように、ブロンズの葉のマントを着た人の肺の部分が金色に輝いている。その奥の『Respirare d’ombra-foglie di tè 影の呼吸-茶の葉』は、部屋の三方をブロンズの葉で多い、その上に網をかぶせた渋い作品。
庭園に出ると、宮殿の正面、池に至る道に木と大理石の彫刻が並んでいる。『Spazio di luce 光の空間』は、中が空洞になった一本の木を数個に切り離し、内側に金を塗り、少しずつ離して置いたものだ。枝の部分が脚の役目をしている。端から中をのぞくと、金色の渦巻が何重にもなって見える。外観からは想像できない異次元の空間だ。『Albero folgarato 雷に打たれた木』は、雷に裂かれた部分が天に向かって開き、そこに金が塗られている。金は雷の表現であると同時に、ペノーネが木の死に与えた栄光だ。粗い素材が、ペノーネの手にかかると錬金術をかけられたように高貴なものになる。
庭園の正面右側の五角形の空き地に7本の木が立っている。一見自然の木のようだが、石を乗せていたり、枝を持っていたりしている。バランスを取りながらヨガのポーズを保ち続けているヨガ行者のようで、人間くさい。(羽)
ヴェルサイユ宮殿10/31迄。宮殿は月休。庭園は無休。
画像:Albero folgarato| Arbre foudroye; 2012 Bronze, or 1000x200x200cm Courtesy Giuseppe Penone-Photo tadzio