ポンピドゥー・センターでの〈シネマ・デュ・レエル〉ほか数々の国際映画祭に招待され、世界20カ国以上でTV放映された『選挙』(06)は、川崎市議会議員補欠選挙で、自民党の公認で立候補した山内和彦さんが当選するまでの選挙戦を追ったドキュメンタリーだ。監督の想田和弘は、ナレーションをいっさい挟まず、彼が見聞したことをそのまま撮影(編集)し丸投げ、後は観客がそこから何を感じ取るかという、彼が提唱する「観察映画」という手法でドキュメンタリーを撮り続ける。
最新作『選挙2』(13)は、日本で7月初旬に公開されたばかり。こちらは、『選挙』の主人公、山内さんが、2011年4月の川崎市議会議員選挙に再立候補し新たに挑む選挙戦を追っている。前作では、ただひたすら名前を連呼し道行く人と片っ端から握手しただけで当選してしまうという、本当にびっくりな日本の選挙を目の当たりに見た。その裏には日本の村体質を把握した自民党の組織力があることも見逃さない。本作は、3・11直後の日本の自粛モード、何ともいえないよどんだ空気の中での選挙戦。今回の山内氏は、福島原発事故をタブーにして触れない政治への「怒り!」から立候補。前回とは違って完全無所属、ポスター貼りと有権者に葉書を送るだけの選挙活動。ポスターと葉書には、主義・主張・政策が刷り込まれている。そしてみごと落選。
さて、7月21日に開票された参議院選挙は与党(自民党と公明党)が大勝し参議院議席数の過半数を超えた。その結果、今後の日本に何が起こるのか? 最悪のシナリオは、原発推進、改憲、軍隊の設立、徴兵制度、近隣諸国との摩擦、戦争…。日本が世界に誇る基本的人権を軸にする平和憲法の運命は? いったい何人の日本人がそれを許すというのか? なのにこの極めて危険な考えをもつ自民党が勝ったのである。この謎の一つの答えが『選挙』と『選挙2』にある。 (吉)