20年前にさかのぼる事業家ベルナール・タピと元国営クレディ・リヨネ銀行((以下LCL)の係争問題を2007年、民間仲裁裁判に託した当時の経済相(現国際通貨基金IMF専務理事)クリスチーヌ・ラガルド氏が「公金乱用共犯」容疑で5月23、24日、共和国法院(閣僚在任中の違法行為を裁く)の予審聴取に出頭した。が、容疑者、証人ではなく「重要参考人」として扱われることに。
当係争問題を民間仲裁裁判で処理したことを違法とし、2011年に社会党議員らが破棄院に提訴した。ストロース=カーンDSK前IMF専務理事のNYのホテル従業員への性犯罪裁判に次ぐ仏国際高官の裁判沙汰でオランド大統領もヒヤヒヤ。
タピ対LCL係争とは、1990年、タピがLCLから借金し16億フラン(230万ユーロ)でアディダスの80%を相続人から買収したが、利子があまりにも高く2年後に経営難に。タピは同銀行にアディダス株を20億フランで売却。93年、LCLはスイスの事業家ルイ=ドリュフス氏にアディダス株15%を20億フランで、2年後に残りの85%を45億フランで売却。その1年後アディダス時価総額110億フランを株式公開し、LCLは25億フランのキャピタル・ゲインを獲得。
LCLが元顧客タピをだまし、オフショア数社による金融操作により大儲けしたとし、05年の上告審は同銀行にタピへの損害賠償金1億3千5 百万ユーロの支払いを命じた。が、タピは満足せず07年から10年にかけてエリゼ宮に御百度(12回)を踏む。サルコジ大統領とタピはウマが合い、大統領はタピの面倒を忠臣ゲアン大統領府事務総長に一任した。経済相就任後1カ月で退任したボルロー経済相はタピの30年来の弁護士で親友。同経済相が離任前にタピ・LCL係争の民間仲裁裁判のお膳立てをしたとみられる。後任のラガルド経済相にバトンタッチされたが、政治家・大臣歴の少ない新経済相には独断的権限はなく、経財省内部の反対にもかかわらず民間仲裁裁判に同意したとみられる。08年7月、同裁判の判決は、LCL倒産後の処理を管理した国営資産管理コンソーシアムに対しタピ 夫妻に損害賠償金4億300万ユーロ(精神的損害賠償金5千万ユーロを含む)の支払いを命じ、タピはホクホクのハッピーエンド?
問題なのは、公正さが要求される民間仲裁裁判の仲裁者3人ともがタピの元弁護士だったり、親交があったりで、タピに有利な判決を下した疑い(仲裁者3人の手数料だけで計100万ユーロ!)。その一人、エストゥ元ヴェルサイユ控訴院裁判長(86歳)は5月29日、「集団詐欺」の主犯容疑者として検挙され、他の関係者も取り調べ対象に。ボルローからラガルド時代まで経済省総務長官を務めたリシャール氏(現国営携帯オランジュ社長)によれば(カナール・アンシェネ紙6/5付)、民間仲裁裁判は大統領府から指示があったよう。
ラガルド元経済相は「国益のために法に基づいて行動した」と証言したが、サルコジ政権下、未経験大臣として、大統領側近閣僚の望む民間仲裁裁判に無条件に同意したことが裏目に出たよう。前大統領は同疑惑が一大政財界事件に発展する前に11年7月、DSKの後任として英語堪能のラガルド氏をNYに高飛びさせたのでは?(君)
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