最近は見かけなくなってきたが、大きな八百屋には、端の方にジャガイモを売っているスペースがあった。見習いっぽい、かけ出しだけれど力がありそうな若い男が「Madame, combien…?」 などと注文を聞いてから、手袋をした手で秤用の入れ物にドサドザッとジャガイモを入れ、はかってくれたものだ。その手袋も前掛けも土ぼこりだらけで、「大変だなあ」と同情したりしたものだ。
今でも朝市には、ジャガイモ屋が一軒はある。ジャガイモ数種類だけでなく、タマネギ、エシャロット、ニンニク、時には、サツマイモやショウガを置いていたりする。そしてパリのBOBOたちが増えている地区では、目新しいヴィトロットという紫色の品種など、ジャガイモを10数種類以上置いている高級店も現れている。
ぼくらの町の朝市のジャガイモ屋は昔ながらで、シャルロットcharlotteにローズヴァルroseval、それにビンチュbintjeがあるくらい。客はグラタンにしたい時はシャルロット、マッシュポテトやポタージュの時はビンチュを選ぶだけで、迷わなくてすむのがいい。10キロ入りの格安の袋入りもよく売れている。やはりフランス人の主食である。主人は背が低くくずんぐりとした体つきで、その10キロの袋入りを軽々とさばく。奥さんの腕もやはり男並みの太さだ。そして客足が遠のいたりすると、奥さんに店を任せて、主人はさっと姿を消して市場内のカフェで赤ワインを引っかけている。うらやましい二人三脚ぶりだ。(真)